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あなたのとりこ 337 [あなたのとりこ 12 創作]

 せっかく為を思って態々代わって小言を云ってやっているのに、その当人から軽く肩透かしを食らった、と云う図でありますか。土師尾営業部長としたらこれはどうにも立つ瀬が無いと云ったところでありましょう。まあ、片久那制作部長の方にすれば、つまらない自己の体面を必死に保とうとして、些末で余計な事を持ち出して敢えて口出しを試みるその土師尾営業部長の手口なんと云うものが、実に煩わしいだけでありましょうけれど。
 この遣り取りを見て社長も苦笑いを浮かべているのでありました。大体に於いて端から想像は付いていたのでありましたが、この経営三人のチームワークなんと云うものは、これはもう全く以ってしっくりいってはいないような気配であります。
 概観すると、社長は片久那制作部長を只管畏れつつ、土師尾営業部長の方は然程にその力量を買ってはいないようでありますか。片久那制作部長は社長にも土師尾営業部長にもその役職に値する程の信頼を端から置いてはいないようで、役職を離れた面に於いても、考え方や感受性や趣味も嗜好も、大きく括れば政治信条も思想性も何から何まで、異人種の如く共感するところなんぞは只管皆無であると見做しているでありましょう。
 土師尾営業部長の場合、片久那制作部長を畏れるのは社長同様でありますし、社長にはなかなかしっかり取り入る態度ではありながらも、こちらも片久那制作部長と同様に社長としての評価は大して高くはないでありましょう。それに第三者から見た妥当性は全く別にして、当人は社長を大いなる俗物と見做しているようであります。これは土師尾営業部長の僧籍に在る者としての評価に起因するようでありますが、当の土師尾営業部長本人の俗物根性にしても、これは到底出家者のものとは程遠い品の無さでありましょうかな。
 土師尾営業部長の片久那制作部長に対する評価は、これは社長の思いをその儘自分の思いとして踏襲しているだけでありましょうし、社長への評価に関しても、こちらは片久那制作部長の社長への評価を考えも無く真似しているだけなのでありましょう。何れにしても自ら考えた評価と云うよりは、夫々の影響、或いは真似の域でありましょうか。
 社長が話しを締め括るためにソファーから身を乗り出すのでありました。
「と云う訳で、片久那君と土師尾君の役員昇格を私の方から諸君に報告しておきます。まあ、この人事は殊更こういう形で諸君に告げる必要も無いとは思ったけれど、諸君とのこの先の良好な関係のために、態々直接に報告したと云う風に理解して貰いたいですな」
 と云われても、組合からは特に異を唱える筋合いも無いものだから、袁満さんを始めとする組合員は総じて不愉快そうな面持ちをしていながらも、無言の儘何の返答もしないのでありましたし、頷くと云った所作もないのでありました。

 この後、珍しく甲斐計子女史も一緒に、それに日比課長も含めて、従業員皆で夕食がてら一杯やりながらちょっと話しでもしようかと云う算段が纏まり、経営三人を除く全員で打ち揃って神保町駅近くの居酒屋に繰り出すのでありました。甲斐計子女史は、組合員になったのだから、この際こう云う付き合いも偶には熟さなければと云う律義さから付き合ってくれたのでありましょう。日比課長の方は組合への参加は社長への遠慮から躊躇いながらも、しかし立場としては組合に近い側に居ると云う了見からなのでありましょう。
(続)
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