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あなたのとりこ 321 [あなたのとりこ 11 創作]

「社長も、土師尾営業部長や片久那制作部長にだけじゃなく、新たにこれから組合の方にも気を遣わないといけなくなって、この先大いに大変な事だよなあ」
 飲み慣れた安酒に舌鼓を打ちながら日比課長が皮肉っぽく気の毒がるのでありました。社長の前では、見様に依っては太鼓持ち的なヨイショを連発していたくせに。
「社長も元々腹が座っていないから、何かオドオドしていたような印象だったなあ」
 袁満さんが先の宴会での社長の様子を振り返るのでありました。
「前からそうだったけど、土師尾さんにも片久那さんにもそう易々と気を許せないし、組合にも、下手な対応をすれば大袈裟に労働争議を起こされるかも知れないから、戦々恐々としているのよ。何かと云うと大物気取りするけど、気が小さいからね、あの社長は」
 那間裕子女史が袁満さんの社長評に続くのでありました。
「社長はウチの会社では孤立無援と云う立ち位置なんですか?」
 頑治さんが那間裕子女史と日比課長を交互に見ながら訊くのでありました。
「ま、そうとも云えるかな」
 日比課長は猪口の日本酒をグイと空けるのでありました。「両部長には実質的に会社を切り盛りしている俺達の待遇をもっと良くしろと、事あるに付けつっ突かれているし、それだけでも社長としては辟易としているのに加えて、今度は組合対応にも気を遣わなければならないとなると、もう投げ出したいくらいうんざりと云ったところだろうな」
「社長は両部長としっくりいっていないんですか?」
 頑治さんは空いた日比課長の猪口に酒を注ぐのでありました。
「結局会社の事より、自分達の待遇の方が第一番なんだろうと見做しているからね」
「両部長までも組合に入るんじゃないかと、屹度気を揉んでいるんだろうなあ」
 均目さんがそんな事を云い添えるのでありました。成程、両部長に自分の側に立つ人間として全幅の信頼を寄せていないとなると、それは確かに孤独でありましょう。
「それでも土師尾さんには片久那さん程の警戒心は無いんじゃないの」
 今度は那間裕子女史が猪口を空けてから云うのでありました。頑治さんは空かさず徳利を持つ手を伸ばすのであました。
「でもそちらはそちらで、取り入るような笑いをしながら、片久那制作部長の悪口もこっそり耳打ちしつつ、自分の方にもっと多く好待遇を寄越した方が得策だと、抜け駆けして強請っているに違いない。あの人はそう云う事を平気でする人だから」
 日比課長は酒臭い息と伴にそう吐き捨てるのでありました。
「確かに片久那制作部長の方はあの社長に対して、社長、と云う会社での立場に対する配慮はちゃんとしても、社長個人に対しては、単なる思慮の浅い俗物としか見做していないだろうし、人物を買ってもいないから、如何にも素っ気無い態度だよなあ」
 袁満さんが云いながら自分のウーロンハイのグラスを傾けるのでありました、こちらには未だグラスに半分以上中身が残っているような気配だし、抑々始めから酌の心配も無いので、頑治さんは何も手出しをしないのでありました。
「だから土師尾営業部長はその隙に付け込んで、こっそり自分を売り出している訳だ」
(続)
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