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あなたのとりこ 308 [あなたのとりこ 11 創作]

「まあ、善処しているところを見せようとする意図は伝わって来るかな」
「でも実質は殆ど動かす気は無いと云う意図も読み取れますけど」
 均目さんは眉間に皺を寄せるのでありました。
「多分向うとしても、本当にこれがギリギリかもよ」
 那間裕子女史が口を挟むのでありました。「原則である同一年齢同一賃金の補正もかち取ったし、それを加えれば組合員平均では例年以上の賃上げになるだろうし、夏の一時金もまあ、例年並みと云う事になるようだし、結構上出来と云えるんじゃないかしら」
「暮れのボーナス、じゃなかった、一時金の事を思えば、確かに御の字かな」
 袁満さんも那間裕子女史に同調するのでありました。
「もう一回粘れば、もう少し金額が上るんじゃないっスかねえ」
 出雲さんが笑いながら冗談めかして言うのでありました。
「その可能性もあるかな」
 袁満さんがこちらも笑いながら受け応えるのでありました。「でも、小出しにしてこちらの出方を見ているような気配でも無いしなあ」
「片久那さんも、つまらない駆け引きをする気は無い、とか云っていたしね」
 那間裕子女史が頷くのでありました。「土師尾さんがそう云ったとしたら胡散臭さプンプンだけど、片久那さんは本当に駆け引きする気はないと思うわ」
「じゃあ、これで妥結する?」
 袁満さんがまたそう聞きながら一同を見渡すのでありました。
「でも二次回答くらいで妥結して仕舞うと、嘗められないかな」
 均目さんは未だ何となく不承のようであります。
「まあ、組合を結成して最初の団交だから、今後の事を考えれば、その辺の粘りとか遣り取りも戦術として確かに重要になってくるかも知れないわね」
 那間裕子女史が均目さんの不承に理解を示すのでありました。つまり片久那制作部長は駆け引きする気は無いと云っているのに、こちらは駆け引きする気満々、と云う事でありますか。頑治さんはそう思うのでありましたが、そんな皮肉っぽい事を敢えてここで口にして那間裕子女史の勘気を態々買う心算なんか更々無いのでありました。
「唐目君はどう思う?」
 袁満さんが頑治さんに発言を求めるのでありました。
「実質が動く気配が見えないなら、これ以上粘っても無意味じゃないですかね」
「でもひょっとしたら、また一時金の一律部分が微増するかも知れないし」
「どうですかね、それは」
 頑治さんは首を傾げて見せるのでありました。「獲得した実質はそこそこ満足出来る水準なんですから、変に頑固な態度に出るより、誠意を感じればこちらも誠意で応えると云う辺りを見せておくのも、寧ろ今後のためには無難なのじゃないですかね」
「まあ、獲得分を増やすより、そう云う風な考え方もあるかな」
 袁満さんは無表情で浅く頷くのでありました。
(続)
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