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あなたのとりこ 296 [あなたのとりこ 10 創作]

 均目さんが代わりに言葉を発するのでありました。
「去年の年末一時金がああいう風になった点を、逆に、もっと良く考えてくれるか」
 片久那制作部長は均目さんの方に目を移すのでありました。「二か月プラス一律二万円と云うのも、君達の心情を慮った上で、相当無理をしているんだ」
 ああ成程と云った頷きをここで袁満さんが無意識にするのでありましたが、これは交渉に於いては拙い仕草であろうと頑治さんは秘かに眉根を寄せるのでありました。均目さんは頷かないながらも、言葉を重ねないで渋面を作って俯くのでありました。
「それから就労時間短縮の件だが、・・・」
 片久那制作部長は淡々と説明を前に進めるのでありました。「今迄は月の内第一と第三土曜日を休みとしていたけど、総ての土曜日を休みにして完全週休二日とする。その代り月曜から金曜までの就労時間を三十分延長して、午前九時から午後五時三十分とする。そうするとその月で長い短いはあるけど、押し並べて月辺りの就労時間は短縮される」
「ええと、これも押し並べてだけど、今迄月に就労日数二十四日間だったのが二十二日となって、時間にすると週百六十八時間だったのが百六十五時間に減ると云う事ですね」
 均目さんが急いで手元にある紙の上で計算するのでありました。「成程ね。一日当たり八分程度の短縮にはなる訳か。まあ、あくまで押し並べてだけど」
 片久那制作部長が頷くのでありました。
「たった八分!」
 袁満さんが素っ頓狂な声を上げるのでありましたが、片久那制作部長に睨まれてたじろぎを見せながら口を窄めるのでありました。
「それがギリギリのところだ」
 片久那制作部長は不愉快そうに袁満さんに向かって云うのでありました。
 一通り回答書の説明を終えた片久那制作部長は、その後は黙るのでありました。嫌々ながらもこれで自分の役目は果たした、と云ったところでありましょうか。
「判りました。ではちょっとこの回答書を検討しますので、少し時間をください」
 袁満さんがそう云うのは予め打ち合わせしていた通りであります。横瀬氏と派江貫氏、それに組合員一同は席を立って一階の倉庫に向かうのでありました。

 倉庫の作業台代わりの机を囲んで、先ず袁満さんが声を上げるのでありました。
「なかなか渋いよなあ」
「要求の半分、と云ったところね」
 那間裕子女史が溜息を漏らすのでありました。「あれじゃあ、組合を創る前の何時もの年の賃上げに少し色を付けたくらいで、大して変わりは無いわね」
 すっかり期待外れでがっかりだし、大いに不本意だったようであります。
「でも全従業員に適用される賃金式が出て来たのは、良かったんじゃないかな。それに回答方式も曖昧さも無く、概ねこちらの要求形式を酌んだ一種の律義さは見られたし」
 均目さんがやや肯定的な評価を下すのでありました。
(続)
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