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あなたのとりこ 295 [あなたのとりこ 10 創作]

「ええと、それなら、諸手当の方はどう云う具合に、・・・」
 袁満さんがその必要は全く無いのに、如何にも遠慮がちに訊くのでありました。
「諸手当に関しては、役職手当と家族手当、それに住宅手当と云う事になっていたが、それに加えて、今話した通り勤続手当を新しく設ける事になる」
「その具体的な金額はどうなるんですか?」
 袁満さんの及び腰の言葉付きを聞いていて、これは頼りないと思ったのか那間裕子女史がここで前に出て来るのでありました。
「回答書に書いてある通りだ」
 片久那制作部長は那間裕子女史の方に無愛想な視線を投げて、一拍の間を置いてそう高飛車に応えるのでありました。しかし那間裕子氏はそれで居竦むような事はないのでありましたし、寧ろ横瀬氏の前にあった回答書を自分の方に引っ手繰るように引き寄せ、それを再読してから、尚も挑みかかるように返しの言葉を発するのでありました。
「こっちは回答書を今渡されたばかりなんだし、皆で急いで回し読みして、なかなか一挙に書いてある詳細を頭に入れる事なんか出来ないんだから、そんな不親切で鮸膠も無いような云い方をしないで、もっと丁寧な態度で説明をしていただけませんか」
「役職手当も家族手当も、それから住宅手当も従来通りの支給額。それにさっき云ったように、新たに勤続手当が毎年三百円ずつ加算される事になる」
 敢えて云う必要も無いだろうと云った風のぞんざいな云い振りでありました。那間裕子女史はその態度にカチンときたようでありましたが、それ以上云い返さずに不愉快そうに小さな舌打ちをしてからプイと横を向くのでありました。その舌打ちに、ここ迄全く出番の無かった土師尾営業部長が、ここぞとばかりに口出しを始めるのでありました。
「那間君、幾ら何でもその態度は無礼だろう」
 そう云って目を怒らせて未だ言葉を継ごうとする土師尾営業部長に、片久那制作部長が即座にストップを掛けるのでありました。
「余計な事は云わないで良いよ。ここでは本筋以外の話しは控えてくれるか」
 当の片久那制作部長に声音に凄みを利かせてそう制されて仕舞うと、土師尾営業部長に立つ瀬は無く、すごすごと引っ込むしか方途も無いと云うものでありますか。
「諸手当に変更はないと云う事ですね」
 袁満さんが確認するのでありました。
「勤続手当以外はね」
 片久那制作部長はこれも繰り返すのを厭うようなうんざり口調でありました。「それから夏の一時金は、基準内賃金の二か月分に一律二万円をプラスする」
 片久那制作部長は話しを先に進めるのでありました。一々説明しなくとも回答書を読めばそれは書いてあるだろうと云った、如何にも面倒臭そうな素振りでありますが、それにイチャモンを付け始めるとこれも、土師尾営業部長と同じ余計な事をこちらも云い出す事になるので、袁満さんも那間裕子女史もここは何も云わないのでありました。
「去年の年末一時金があんな感じだったので、その助成は無いのですか?」
(続)
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