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あなたのとりこ 278 [あなたのとりこ 10 創作]

「そりゃそうだ」
 袁満さんが笑うのでありました。「しかしあの人はどういう了見で、そんな如何にも詰まらない、見え透いた嘘を平気で吐くのかねえ」
「元帳はとっくに見られているのを、お気楽に気付いていないんでしょうね」
「気付いていてもあたし達を自分には盾突く事が出来ないだろうと、嘗め切っているから平気の平左なのよ。確かにあの人と言葉を交わすだけでも億劫だし、諌めるとしてもすぐに頭の天辺から蒸気を吹き出して、意味不明の妙ちきりんな抗弁なんかしてくるに決まっているから、話す以前からもううんざり、と云うこちらの投げ遣りも良くないけどね」
 那間裕子女史が均目さんの意見よりは奥深そうな見解を披露するのでありました。
「そのくせあんな臆病者は居ないですよ」
 袁満さんがまた鶏の唐揚げに箸を伸ばすのでありました。「前に会社に居た刃葉さんとかには、妙にオドオドしていましたからねえ」
「二人共判らんちん同士なんだけど、腕力に関しては刃葉さんの方が格段に上だから、あの人なりに警戒していたんでしょうよ。刃葉さんを怒らせるとどんな厄介が降り掛かるか知れないからと。判らんちんがもう一人の判らんちんを、自分の事は棚に上げて、彼奴は手に負えない判らんちんだと思いなしていたと云う訳よ」
 那間裕子女史は意地の悪い分析を皮肉っぽく語るのでありました。
「もう少し片久那制作部長があの人に対して重しを利かせてくれたら良いのに」
 袁満さんが咀嚼筋をしきりに動かす隙に云うのでありました。
「片久那制作部長もなるべく、七面倒臭いヤツには関わりたくないんでしょう。それに土師尾営業部長は社長とつるんでいるし。社長も片久那制作部長を煙たく思っているみたいだから、そう云う点で土師尾営業部長と社長は仲間なんでしょうね」
「へえ、社長は片久那制作部長を煙たく思っているんスか?」
 出雲さんが珍しく口を開くのでありました。
「そうだよ。色々遣り込められているんじゃないの、待遇とかの面で」
「均目さんはなかなか社内の人間関係に詳しいっスね」
「あの二人を見ていればそれとなく判るだろう、なあ、唐目君」
「ああ、まあ、何となく判るような判らないような」
 急に均目さんに名指しで同意を求められて、頑治さんは多少戸惑いながら曖昧な返事をするのでありましたが、確かに社長は片久那制作部長の前では物腰も態度も、その存在感に圧倒されて仕舞うのか、変にオドオドとしたところがありはしますか。
「組合結成の暁には、例えば団交の席とかで土師尾営業部長の仕事振りに対しても、あれこれ注文を付けたりするんスか、組合として?」
 出雲さんがそうなれば面白かろうと云った笑いを片頬に浮かべるのでありました。
「団交の席でと云うのはどうかな。それは労働組合で取り上げるべき問題とは別の、社内会議とかに於いて問題にすべき事項だろうし。ま、組合とは別の場であっても、暗に組合の存在を後ろにちらつかせると云うのは、なかなか有効な遣り口だとしても」
(続)
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