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あなたのとりこ 273 [あなたのとりこ 10 創作]

 均目さんは即座に反論するのでありました。
「弁も立つようだし、均目さんが副委員長と云う事にすれば?」
 横瀬氏がどう云う心算か半笑いの顔でそう促して見せるのでありました。
「いやいや、俺は執行委員の儘の方が良いですよ。会社での年季や年齢から見ても、俺が副委員長と云うのは僭越と云うものですし」
 均目さんとしては自分がここで副委員長に就任ずるとなると、ひょっとして若しまた袁満さんが抜けるような事があった場合、今次の人事の前例からしても自分がその次の委員長に就任する羽目になると云う事で、それはまっぴらご免蒙りたいと云う目論見から副委員長就任を回避したいのでありましょう。均目さんの副委員長就任と云う案も悪くはないと頑治さんは思うのでありましたが、当の均目さんが、その秘かな魂胆の正統性は置くとしても、固辞の意向であると云うのなら、竟々出て仕舞う苦笑は禁じ得ないとしても、敢えて頑治さんが進んで副委員長に推挙する気も謂れも無いというものでありますか。
「委員長と副委員長は製作と営業からと云う当初の意向だったけど、均目さんの固辞でそれが崩れたとなると、それでは出雲さんはどう?」
 横瀬氏が出雲さんの顔を見るのでありました。
「えっ、俺っスか?」
 急にお鉢が回って来た出雲さんはたじろぐのでありました。「俺は一番歳が若いし、組合活動に関して、この中で誰よりも疎い人間っスから、絶対ダメ、っスよ」
「まあ、当該の中で袁満さんが新委員長で他は現職に留任と一決したんですから、それを尊重して貰って、当面はそう云う事で行きましょうよ」
 これ以上副委員長ポストの件で揉めるのは自分に不都合と恐らく踏んだものだから、均目さんが横瀬氏にそれを黙って呑むように言葉を押し込むのでありました。
「愈々組合が発足となった時に正式な人事を決めれば良い事なんだから、当面は当該の決定を尊重する事にした方が何かと無難でしょうねえ」
 派江貫氏が横瀬氏に横から進言するのでありました。
「それもそうかな。組合結成公然化と春闘要求提出までもう間が無いから、ここで役職の件で時間を使うのも確かに勿体無いし、無意味な気もするかなあ」
 横瀬氏も同意のようでありました。恐らく横瀬氏も派江貫氏も山尾主任が抜けて組合結成そのものが空中分解しなかった事に、秘かに安堵しているのでありましょう。依ってここで変な横槍を入れるのは避けた方が賢明と云う判断でありましょうか。
「ではこの前までの会議で要求の大まかなところは決まったので、それを詰めていきましょうか。ええと、新たな全従業員に適応される賃金式を導入するんでしたよね」
 横瀬氏が議事進行を促すのでありました。
「そうですね。では早速」
 ここで袁満さんが口調を改めるのでありましたが、初の進行役と云う事で多少の緊張と気負いがあるせいか、何時ものくだけたもの云いではなく格式張った物腰であります。「ええと、書記の那間さん、新しい賃金式の案をここでもう一度浚ってください」
(続)
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