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あなたのとりこ 263 [あなたのとりこ 9 創作]

「それはそうだけど」
 那間裕子女史は少し応えに窮するような表情をするのでありました。
「確かに日比課長も、二番手と云う意味では土師尾営業部長の二番手には違いないけど、日比課長を辞めさせると土師尾営業部長は楽が出来なくなるじゃないか。日比課長を目一杯働かせて自分は楽をしようと云う心算なんだから、それでは困るだろう」
 均目さんが首を傾げるのでありました。
「だから制作部の山尾主任を営業にコンバートしたしたんじゃないのかな、要するに日比課長の挿げ替え要員として。つまり両部長の魂胆としては山尾主任じゃなくて、日比課長と出雲さんを狙った首切りを目論んだと云う風にも思えるんだけど」
「ああそうか。配下である山尾主任の切り捨ては片久那制作部長の義理人情が許さないけれど、日比課長となるとその辺は自分に云い訳が立つ。序に連動して出雲君も辞めて貰えれば、二人の二番手が居なくなる訳だから慎に好都合と云う判断か。山尾主任が営業に移れば、少し時間が掛かるとしても、土師尾営業部長は相変わらず楽が出来そうだし」
 均目さんが頷くのでありました。
「それで新規の地方特注営業とか云う仕事に二人を配置したと云う訳ね」
 那間裕子女史も納得気に頷くのでありました。
「と云う事は、地方特注営業と云う仕事は、始めから新規の営業として力を入れる心算は無かったと云う事か。目論見としては二人を辞めさせる事が狙いで、そのための口実としてそんなまことしやかな新規営業形態を思い付いたと云う事になるな」
 均目さんが義憤に駆られたような云い草をするのでありました。
「若しそれが本当なら、陰険な遣り口ね」
 那間裕子女史が顔を顰めるのでありました。
「しかしこれはあくまで想像だから、実のところは確とは判らないけど」
 頑治さんが二人の義憤に少し水を差すのでありました。
「でも片久那さんならそんな手の込んだ事も遣りかねない、かも知れないわね」
「それに社長も一枚噛んでいるって事も考えられる」
「そう云う事なら日比さんも組合に入って貰ったらどうかしら。その辺りの社長と片久那さん土師尾さんの悪巧みから自分の身を守るためにも」
「でも、繰り返しますがあくまでも推察の域を出ない話しですから、日比課長がその辺の事情にリアリティーを感じてくれるかどうか判りませんよ」
「そうだよなあ。日比課長はあの通り呑気な人だから、まさかそんな事がある筈がないと一笑に付す可能性の方が大きいかな。それに日比課長に組合結成の件を話したら、それこそ間違いなく両部長にあっさり筒抜け、と云う事になるだろうな」
「あたし達の中で組合結成の話しが進んでいる、と云う事を早速ご注進に及んで、その律義な忠義立てを以って保身を図るかも知れないと云う事ね。有り得なくも無いわね」
 那間裕子女史が眉根を寄せるのでありました。どうやら日比課長の事を那間裕子女史も均目さんも、その人間性の辺りではあんまり信用してはいないようであります。
(続)
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