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あなたのとりこ 258 [あなたのとりこ 9 創作]

「それはマッチングのミスみたいなもので、山尾主任が悪い訳じゃない」
「じゃあ、奥さんに逃げられた点は?」
「それも山尾主任が一方的に悪い訳じゃないし、これも云ってみればマッチングのミスと云う事も出来るさ。ま、山尾主任が結婚を焦り過ぎたのもあるかも知れないけど」
「山尾主任は屹度、愛妻家になったと思うけどなあ」
 頑治さんが独り言のように呟くのでありました。
「確かに。でもちょっと重たい愛妻家かな」
 均目さんが首を傾げる動作を加えた曖昧な頷きをするのでありました。
「そうね。山尾さんの愛妻家振りは多分妙に鯱張っていて気が滅入るかもね。それに間違い無く、その当分の見返りを奥さんに心根の内で期待するだろうしね」
 那間裕子女史が賛同するのでありました。「あたしはそう云うのはまっぴらご免だわ」
「確かに那間さんに山尾主任は向かないだろうな」
 均目さんが笑うのでありました。
「こっちの方で始めからお断りよ」
 那間裕子女史はジントニックをグイと煽るのでありました。
「労働組合の方はどうなるんだろう」
 頑治さんが会話の流れの分岐を左に曲がるのでありました。
「さあ、どうなるのかねえ」
 均目さんが力なく笑ってまたもや首を傾げるのでありました。
「袁満君が委員長となると大分頼りなくなるわね」
 那間裕子女史がまたまたグラスを唇の上で急角度に傾けるのでありました。先程、八割くらいグラスの中に残っていたジントニックが、これで一気に残量五割を切るのでありました。何時もながらになかなかのハイペースであります。
「そう云うけど、那間さんは山尾主任もそんなに買ってはいなかったじゃないか」
 均目さんが未だ口を付けていないお代わりしたジントニックを持った手の人差し指のみをピンと伸ばして、那間裕子女史の方を指差して見せるのでありました。
「それは確かにそうだけど、でも未だ袁満君よりはマシかな。袁満君は労働運動に付いて基本的な知識すらとんと無いようだからねえ。山尾さんも認識が浅かったけど、自分が労働組合を率先して創ろうとした分、あれこれ学ぼうとする姿勢はあったみたいだし」
「そう云う那間さんだって労働組合とか労働運動に対して、大して深い認識を持っているとは云えないような気がするんだけど」
「そりゃあ、あたしも大した認識は持っていないわ。未だにあんまり関心もないし。だから間違いなく、あたしが委員長と云う線は無い訳よ」
「まあ俺も大して認識も興味も無いから、そんな七面倒臭い役割はご免だけどね」
「それで無責任に、袁満さんに委員長就任を何とか押し付けようとしたんだな」
 頑治さんが指摘すると均目さんは苦笑ってそれを肯うのでありました。
「そう云う億劫の前に俺は第一、全総連と云う組織に全くシンパシーを感じないんだ」
(続)
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