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あなたのとりこ 234 [あなたのとりこ 8 創作]

 均目さんが不穏な事をものすのでありました。
「今までそんなには気にならなかったけど、結婚して一夜を伴にしてみたら何となくがっかりして仕舞ったとか、朝になって相手の寝顔を見た時にふと、前に感じた嫌なところが急に鼻に付き出した、なんて事を世間では時々聞くわね」
 那間裕子女史が聞き様に依っては露骨な事をあっさりケロッとした顔で云うのでありました。均目さんが那間裕子女史の顔を見てニヤリと笑うのでありました。
「若し仮にそう云う風な事情だったと仮定するとしても、それは山尾主任の心情がそう云う事なのかな、それとも彼女さんの方の心情なのかな」
 均目さんがこの話しを敷衍しようとするのでありましたが、これは均目さんのある種の人の悪い面白がりからでありましょう。
「彼女さんの為人とか顔付きなんかをさっぱり知らないから何とも云えないけど」山尾さんにその手の陰影に富んだ感受性は無いんじゃないのかな」
 那間裕子女史はあくまで山尾主任の事を、一本調子の底の知れた単純明快な男と考えているようであります。「まあ、冗談や洒落の判らない陰気な人でもあるし」
「じゃあ、彼女さんの方の心情を那間さんは推し量った訳ね」
「まあそうだけど、でもあたしに云わせればそれは、今まで自分自身に白を切るために、気にならないような振りをしていただけね。本当は目を瞑る事が出来ない程嫌だったくせに、無理に目を瞑っていただけ。それが一夜を過ごしてみてはっきりしただけよ」
「破局を元々孕んでいたけど、これまで見て見ない振りで誤魔化していたから、当然の帰結として破局したという訳か。ま、那間さんが最初に云っていた、一夜を伴にしてみたら、フィジカルな点でがっかり、と云う明快なパターンも考えられるけど」
「あたし別に、フィジカルな点で、とか全然云っていないけど」
 那間裕子女史は均目さんの如何にも下卑た思惟に対して、一応念のためにつれない目容で否を発語して見せるのでありました。
「抑々、破局したと決まった訳じゃなくて、単に山尾主任から新婚さんの浮かれた様子が窺えないと云う、ただそれだけの不思議でしかないけれどね、今のところは」
 頑治さんが二人の論の展開に水を差すのでありました。
「それはそうだけどさ」
 均目さんが白けた目を頑治さんに向けるのでありました。この場の話しの展開を面白くしようとして云っているだけの戯れ言なのに、そう云う足払い的な水差しは反則だろうと云う抗議が語調に籠められているのでありました。均目さんに云わせればこの頑治さんの意見てえものは、那間裕子女史が山尾主任に抱いている思いと同様、冗談も洒落も解さない野暮で無粋で、ある意味卑怯な意見と云う事になるのでありましょう。確かに体裁上人の悪さは無いにしろその分余計に、反則の度合いが重いと云う判定のようであります。
「ま、山尾さんの今後の展開が見ものではあるわね」
 那間裕子女史も人の悪さの方に足場を置いているようであります。「でもそれは、どうでも良いと云えば確かにどうでも良い事だけどね、実際あたしにとっては」
(続)
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