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あなたのとりこ 233 [あなたのとりこ 8 創作]

 均目さんは派江貫氏の眼色に対してさも煩そうに眉根を寄せるのでありました。
 この二人てえものは、最初の会合で目を合わせた時から、何となく剣呑な空気を間に挟んだ間柄のようでありましたか。全然馬が合わない辺り恰も天敵の如く、或いは前世からの因縁を引き摺ったような仇敵の如くであると云うのか、何と云うのか。・・・
 先に一端仲を仕切り直した様子も窺えたのでありましたが、なかなかどうして、そう簡単にはいかない模様であります。ひょっとたら見てくれは異類ながら互いに同じ気質を持っている同士である事が判るものだから、反発し合っているのかも知れませんけれど。
 結局この日の会議は山尾主任の不在もあって、雑談ばかりで大して実りある会合とはならないのでありました。山尾主任と同程度の温度で組合結成に意欲的で積極的な人間が居ないし、外部の三人への義理立てで取り敢えずこうして参集したような按配でありますから、これはもう全く以って仕方が無いと云うものでありますか。

 その山尾主任が会社に復帰したのはそれから三日後でありました。
 さぞや晴れやか且つ照れ臭そうな顔をして現れると頑治さんは思っていたのでありましたが、頑治さんと殆ど前後して会社の扉を開けた山尾主任の顔は、思いの外無表情なのでありました。これは竟々表に現れて仕舞う気分の高揚を無理に隠そうとしての無表情と云うよりは、何処かしら沈んだ気配が潜んでいるような様子でありました。山尾主任は均目さんのように普段から分別臭い顔をしていると云うのではないのでありましたが、何やらちょっと白けたような、無愛想で投げ遣りな風情なんぞもチラと窺えるのであります。
「グアム島の結婚旅行から帰って来たにしては、何か浮かない顔付きだなあ」
 これは昼休みに那間裕子女史と均目さんと三人で、会社近くのビジネスホテル一階にあるバイキング形式で供される昼食を摂りに行った時の均目さんの感想でありました。
「そうだね。隠そうとしても隠せない筈の、弾んだ胸の内が見られないかな」
 頑治さんは同感の頷きを返すのでありました。
「単に照れているだけじゃないの」
 那間裕子女史は山尾主任の意中とか機嫌とかには、と云うよりは山尾主任の結婚そのものに対して無関心だと云った風に云うのでありました。
「いや、照れているだけなら、それはすぐに察する事は出来るさ」
 均目さんがいやいやをするように首を横に振るのでありました。「見様に依っては冴えない表情、と云う風にも見えると云えば見えるし」
 均目さんは頑治さんの顔に視線を向けるのでありました。
「まあ、浮付いた顔付きとかじゃ、確かにないなあ」
 ここでも頑治さんは同意の頷きをするのでありました。
「グアムへの結婚旅行中に、彼女さんとの間に何かあったんじゃないの」
 那間裕子女史が然して心配しているような風にではなくそう云うのでありました。
「そう云えば今売り出し中の噺家の何某とか云うヤツが、新婚旅行から帰って来た途端に離婚した、なんてこの前テレビのワイドショーでやっていたなあ」
(続)
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