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あなたのとりこ 231 [あなたのとりこ 8 創作]

「片久那制作部長と一緒に飲む機会も全く無いし、余計な話しは控えろって無言のオーラが片久那制作部長の全身から何時も出ているし、うっかり軽口も云えない雰囲気だし」
 均目さんが続くのでありました。
「ほら、確かあの陰鬱な話しが出た初出社の日に、山尾主任と片久那制作部長が終わってから二人だけで居酒屋に飲みに行った事がありましたよね」
 袁満さんが少しの疑いを秘めた目で那間裕子女史を見るのでありました。
「あれは片久那さんが山尾さんに営業部移動を納得させるためだったろうけど、まさかそこで、一番組合結成に傾斜している山尾さんが、幾ら傷心と動揺の中にあるとしても、それを漏らしたら拙いと云う事くらい、ちゃんと弁えてはいるでしょうし、・・・」
 そう語尾を曖昧にするのは、那間裕子女史自身も山尾主任に対して全服の信頼を置いている訳ではないと云う意のやんわりとした表明にもなりますか。
「はっきりそう云う話しをしなくても、片久那制作部長は勘の良過ぎるくらいの人だから、ちょっとした会話の機微で察すると云う恐れもあるじゃないですか」
 袁満さんが山尾主任犯人説に拘るような素振りを見せるのでありました。
「そんな事を云うと、それは確かに、その懸念は拭えないけど。・・・」
 那間裕子女史の言葉から力強さがすっかり影を潜めるのでありました。
「まあまあ、未だ組合結成の件が会社に漏れたと決まった訳では全く無いのですから」
 頑治さんが話しの雲行きが険しくなるのを恐れて宥めに掛かるのでありました。「業績の悪化に狼狽えて、こうなったのは自分のせいではなく社員の仕事振りが悪いためだと云う点をアピールするために、土師尾営業部長辺りが責任を転嫁する魂胆で急に考え出した事なんじゃないですかね。そう考える方が文脈が乱れないように思いますけど」
「ま、実際のところはそうだよな」
 均目さんが同調するのでありました。「偶々向こうのあたふたが、こちらが組合結成の準備をしているタイミングと重なったと見る方が妥当かな。揺さぶりをかけて妨害してきたとか考え過ぎないで、こちらは粛々と準備をしていけば良い。ひょっとして組合結成がバレたからだとしても、それはこれからの展開を見てみないとはっきりしないしね」
「それは確かにその通りだ」
 横瀬氏がすっかり納得したのではないにしろ、そう頷いて見せるのでありました。それに依ってバレたバレないの話しは、一旦脇に置く事になるのでありました。
「ところで皆さんは、提示された配置転換をすんなり受け入れるお心算かな?」
 来見尾氏が袁満さんと出雲さんを交互に見ながら訊くのでありました。二人はお互いに顔を見合わせながら、どう返事して良いものか戸惑っている様子でありました。
「出張日数が減るかも知れないと云う点では、好都合と云えば好都合かなあ」
 袁満さんが、こういう返答はこの場に於いて不謹慎と思われるかそうでないか、やや及び腰を見せながら呟くように云うのでありました。
「それが労働強化にはならないのかな?」
 来見尾氏が重ねるのでありました。
(続)
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