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あなたのとりこ 208 [あなたのとりこ 7 創作]

 土師尾営業部長が今度は袁満さんの方に険しい視線を向けるのでありました。
「ああそうですか」
 袁満さんは少しふてた語調でそう云ってその後は口を噤むのでありました。
「確かに袁満君一人で全国を出張でカバーするのは難しい事になる。だから勿論、一部の地域は暫くの間は出張を継続して貰う事になるだろうけど、後は漸次電話を駆使するとかあれこれ、他の適切な遣り方を袁満君自身で考えて貰いたいと思っている」
「後の事は俺にすっかり丸投げですか」
 日頃からあんまり怒った顔は見た事が無い袁満さんが、やや興奮した口調でそう云い捨てて目を吊り上げるのでありました。出張営業の大変さを、実は全く理解していないと思しき土師尾営業部長にはここで改めてげんなりしたと云ったところでありましょう。
「そう云う云い方は止めてくれるか。日頃から感じていたけど、袁満君は何も自分では考えないで、従来通りの営業のやり方に安穏と乗っかっているだけだったけど、それじゃあ売り上げがじり貧になるのは当たり前だ。ここはそう云う態度を改めて、今迄の効率の悪い出張営業の在り方を見直す良いチャンスだと捉えるべきじゃないか」
 これは趣旨として、前に酒の席か何かで那間裕子女史からも聞いた話しだと頑治さんは思うのでありました。しかし土師尾営業部長の云い口には一種の無責任さが感じられるのでありました。それは出張営業をさして大切にも思っていないような気色と云うのか、幾つかある贈答社の営業手段の数にも入れていないような軽々しさと云うのか。まあ、那間裕子女史もそんなに責任ある切実な気配で云ってはいなかったのでありましたけれど。
 袁満さんが今恐らく秘かに危惧しているように、土師尾営業部長は袁満さんにすっかり丸投げして、結果が出せないなら出張営業と云う営業形態を容赦無く切り捨てる心算でいるのかも知れません。若しそうなら、袁満さんにとっては忌々しき問題であります。
 無愛想に黙り込んでいた日比課長がここで声を上げるのでありました。
「部長の今云っている事は、あれもこれも無茶ですよ」
「何が無茶なんだ」
 土師尾営業部長は日比課長を睨んでムキになるのでありました。
「だって、今の話しを聞いているとまるで出張営業を切り捨てようとしているように聞こえるじゃないですか。それじゃあ袁満君も立つ瀬が無いと云うものですよ」
 日比課長も頑治さんと同じような危惧を土師尾営業緒部長の話し振りから感じたようでありました。恐らく袁満さんも他の社員も、この辺は同じでありましょうか。
「じゃあ聞くけど、この儘何も手段を講じないでいたら、日比君はウチの会社はどうなると思うんだ。この儘推移すれば、業績回復が見込めないから、厳しい事を云うようだけど今年一杯持つかどうか判らないからね。それでも構わないと日比君は云うのか」
「そんなに喧嘩腰にならなくでも良いですよ」
 日比課長は皮肉っぽく笑って、対抗上至極穏やかに返すのでありました。それがまた土師尾営業緒部長の怒りを増幅させるのでありました。
「誰も喧嘩腰になんかなっていないよ!」
(続)
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