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あなたのとりこ 201 [あなたのとりこ 7 創作]

「いや、二社共私が専門に担当していると云う訳じゃない。部長だって関与している会社じゃないですか。どう云う用事か知らないけど顔出しも偶にしているようだし」
 日比課長は抗弁するのでありましたが、何となく責任逃れの言葉のように聞こえるのでありました。日比課長としては受注が来なかったのは自分だけのせいだと暗に責められているように受け取って、それは大いに不本意だと表明したかったのでありましょう。
「でもその二社から受注があった時は日比君の実績として何時も評価している」
 そう云われて日比課長はそれ以上の反論は控えるようでありました。まあ、本当に日比課長の実績として土師尾営業部長が認識しているかどうかは別にしても。
「確かにウチの業績は特注任せのところがありますからねえ」
 袁満さんが土師尾営業部長と日比課長の遣り取りをそれ以上険悪にさせないためか、そう云ってから土師尾営業部長に話の先を促すような目を向けるのでありました。
「袁満君がそんな風に云うとはがっかりだね。そんな人任せみたいな無責任な事を云う前に、落ち込み続けている出張営業をどう立て直すか考える方が先じゃないのか」
 土師尾営業部長は袁満さんの、場を穏やかに保とうとする意を台無しにするような事を口にするのでありました。袁満さんは憮然として土師尾営業部長の口元を一瞬睨むのでありましたが、特に日比課長のように抗弁はせずに、慎に控え目で及び腰の舌打ちをしてからそっぽを向くのでありました。返す言葉を失った、と云った仕草でありましょう。
「まあ良いけど」
 土師尾営業部長は不愉快そうに呟いてから、ここで仕切り直しをする心算か咳払いをして徐に眉間に皺を寄せて手に持つ紙に目を落とすのでありました。

 土師尾営業部長は顔を起こしてから続けるのでありました。
「その二社に引き摺られた訳じゃないだろうけど、特注営業全般で売り上げが昨年より落ちているし、今現在、大口の受注が殆ど無い状態です」
「長い目で見れば、そう云う時期もあるんじゃないですかね」
 ここで山尾主任が口を開くのでありました。
「そんな事を云って楽観している余裕は無いよ。不謹慎な発言は慎んでくれるか」
 土師尾営業部長は鮸膠も無く即答するのでありました。「制作部はある意味で売り上げの実情に無関心だから、そう云う危機意識の無い事を平気で云えるんだろうけど」
 ここで今まで全く口を開く事の無かった片久那制作部長が如何にも聞こえよがしに鼻を鳴らすのでありました。これは土師尾営業部長への一種の牽制でありましょう。つまり業績の実状だけではなく会社そのものの実状を一番知っているのは、お前さんじゃなくてこの自分だろうが、と云う謂いを籠めた一挙放出的な鼻息音でありますか。
 土師尾営業部長はビクッとして、横の片久那制作部長をたじろいだ目で見るのでありました。片久那制作部長の方は顔を動かさないで、不機嫌そうに前上方一点に視線を向けているだけでありました。貫録の差がここで歴然と現れたと云った按配でありますか。
「勿論、片久那制作部長も業績について良く承知しているけど」
(続)
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