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あなたのとりこ 198 [あなたのとりこ 7 創作]

「ご明算」
 頑治さんは寝惚け眼を擦りながら少し掠れた声で肯うのでありました。
「寝正月なんて羨ましいわね」
「正月は寝る以外に遣れる事があんまり無いからね」
 頑治さんはここで欠伸をして見せるのでありました。「どうだいそっちは?」
「何時ものお正月より暖かいみたい」
「こっちも温かくて寝正月日和だね」
 頑治さんはもう一度欠伸するのでありました。
「今お父さんと兄は夕方迄あっちこっち年始回りに行っているのよ」
「お母さんは?」
「何となく気分が優れないからって、部屋で寝ているわ」
「どんな具合だい、お母さんの様子は?」
 この辺から頑治さんは頭の中の霞が晴れてくるのでありました。
「六日に精密検査で市立病院に入院する事になっているの」
「食事が儘ならないとか云っていたけど」
「そうね、夏に見た時より大分痩せたわね」
「心配な事だなあ」
「まあ、精密検査で色々はっきりするんじゃないかしら」
「そうだな、精密検査待ちって感じかな」
 ほんの少しの間が空いた後、頑治さんは話題を変えるのでありました。「ところで、そっちの友達には、もう何人かと逢ったのかな」
「今晩、高校の時の同窓会があるの。と云っても、三年の時の同じクラスだった六七人でお食事会って感じなんだけどね」
「学校全体の行事、と云う訳ではないんだ」
「そう。何となく仲間内で声かけて集まるって云う感じ」
「ミッション卒業の女子ばかりだから、大勢で酒喰らってドンチャン騒ぎは無い訳ね」
「まあ、そう云うのも全くしない訳じゃないけど」
「ま、お母さんの事はあるけど、楽しんでおいで」
「うん、楽しんでくる」
 夕美さんの声の調子は特段楽しみにしているようではないのでありました。
「四日の新幹線の指定席はもう取れているのかな?」
 頑治さんはまた話しの舳先を曲げるのでありました。
「うん。昼の三時に東京駅到着のひかり」
「判った。ホームまで迎えに行くよ」
「正月休みでのんびり朝寝したいだろうから良いわよ、態々来なくても」
「どんなにダラダラ朝寝したとしてもその頃には起きているよ。それにもう、朝寝、じゃないし。腹も、減るし。基本的に一人暮らしは正月には特に何もやる事が無いもの」
(続)
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