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あなたのとりこ 189 [あなたのとりこ 7 創作]

「入社して間もないと云うのに色々大変そうね」
 夕美さんはあんかけの蟹玉を自分の小皿に取り分けながら云うのでありました。
「そうね。ちっとも知らないで就職したけど、業績不振らしい」
「それで結局、暮れのボーナスは二万円ポッチしか貰えなかったのね」
「ま、そう云う事だね」
 頑治さんは細切り牛肉と苛の炒め物を頬張りながら頷くのでありました。「しかし例えば去年と同じに二か月半出たとしても、中途入社の俺は色々小難しい日割り換算をされた挙句に、まあ良くて五万円程しか貰えないと云う事になるらしいけどね」
 中途入社の社員の場合には、一年の就業日数からボーナス対象月迄の実働日数を算出してその後にそれを時間に換算して、例えば二か月半の支給ならばそれを計算した時給にするとどのくらいの額になるかを算定して、それからそれを、見習い期間と称する二か月分を差し引いた中途入社社員の実労働時間に見合った額に再計算して、それからそれから、・・・と云う具合の計算式を頑治さんは以前に均目さんから聞いた事があるのでありました。込み入った算数パズルのような余りと云えば余りの七面倒臭い計算式に、聞いている途中で頑治さんは頭の中に霞が兆して意識がクラクラとしてくるのでありました。
 実は均目さんも計算式の正確なところは知らないのでありました。入社して最初に貰ったボーナス額が思っていたより大幅に少なかったので、一体どういう計算をしたらこんな額になるのかとあれこれ自分で計算をしてみたのだそうであります。それで、貰った額に一番近い値になるのが頑治さんに示した先の計算式と云う事になる訳でありました。
「単純に実労働日数の割合を支給金額に掛ければそれであっさり済みそうなものを、なんでそんなにまわりくどい計算を態々するんだい?」
 頑治さんは首を傾げながら均目さんに訊くのでありました。
「如何に中途入社社員のボーナス支給金額を最少額に抑えるか、と云う了見からには違いないだろう。そんな面倒で複雑な計算式は社長や土師尾営業部長の頭では手に負えないだろうから、これは片久那制作の頭から捻りだされた計算式だろうな」
「何となく姑息な手口に思えるな」
「複雑なだけに迂闊なヤツにはなかなか後追い出来ないところがミソだな」
 均目さんはそんな事も付け加えるのでありました。
「どうして五万円程度になるの?」
 夕美さんがビールを一口飲んでから小首を傾げるのでありました。
「小難しい計算があるんだよ」
「どんな計算?」
「前に聞いたんだけど、小難し過ぎてものぐさの俺にはさっぱり理解出来ない」
 頑治さんは呑気そうに笑うのでありました。
「何か頑ちゃん、二万円ポッチの支給に対してあんまり悄気ていないようね」
「今まで遣って来たアルバイトじゃあそんな臨時収入は全く無かったから、二万円ポッチでも貰えるだけ儲けものと云った気分かな」
(続)
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