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あなたのとりこ 137 [あなたのとりこ 5 創作]

「袁満君が信州出張から帰って来るのは何時だっけ?」
 山尾主任が訊くのでありました。
「ええと今度の出張は南信州だけだから、三泊四日で戻りますけど」
「と云う事は来週の月曜日か」
「ボーナス支給日の三日前だ」
 均目さんが指を折って確認するのでありました。
「まあ、出張だから仕方が無いけど、それじゃあ、来週の月曜日の仕事明けに集まるとするか。それ迄に各自どんな抗議の仕方が良いか考えて置くと云う事になる」
「でも俺、月曜と火曜は代休を取りたいんですけど」
 袁満さんは慎に遠慮気味に云って頭を掻くのでありました。
「どうしても月曜に用があるのなら仕方無いけど、火曜と水曜に出来ないのかな?」
 山尾主任にそう訊かれると、袁満さんは月曜日にのっぴきならない私用があると云う事でも無いようで、少し考えてから案外あっさりと頷くのでありました。
「ああそうですか。それならまあ、そうしますけど」
「じゃあ、申し訳無いけどそうしてくれるかな」
 山尾主任は頷いてからまた腕時計を見るのでありました。
「出雲君はどうなの、出張の予定は?」
 那間裕子女史が確認のため訊ねるのでありました。
「俺も、金曜日に出て帰って来るのは多分二週間後ですかね。今年最後の東北出張になりますから、ひょっとしたら二三日長引くかもしれませんけど」
「じゃあ、正念場のボーナス支給日当日は居ない訳ね」
「そうなりますね、済みませんけど」
 出雲さんは別段必要無いと思われるのでありましたが、謝りの言葉を付け足すのでありました。一致団結に自分が欠けるのが出雲さんとしては後ろめたいのかも知れません。
「出張なんだら、それは仕方が無いね」
 均目さんが庇うのでありました。
「じゃあまあ、そんな事で今日はこれ迄とするか」
 山尾主任がそう締め括ってその日の打ち合わせは解散となるのでありました。

 六人はぞろぞろと打ち揃って三階の事務所に戻るのでありました。応接ソファーには片久那制作部長と日比課長が向いあって座っていて、二人の間には一面に白黒の石が入り乱れて並べられている碁盤が据えてあるのでありました。
 最近片久那制作部長は囲碁に凝っているようで、昼休みによく日比課長と二人して碁盤を間に向かい合っているようであります。囲碁を初めて間も無い片久那制作部長が碁歴の長い日比課長に教えを受けているのでありました。尤も、疎ましいと云う程では無いのでありましょうが、日比課長の方は殆ど毎日昼休みに相手をさせられる事に些かげんなりしているようでもあると、頑治さんは袁満さんから前に聞いた事があるのでありました。
(続)
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