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あなたのとりこ 134 [あなたのとりこ 5 創作]

 山尾主任はそう云って頷くのでありました。「俺達個々では社長や土師尾営業部長に待遇面の事は今迄何も云えなかったけど、団結して組織として労働者の正統な権利を行使すれば、賃金とか待遇ばかりじゃなく仕事の面でも色んな改革が出来るかも知れない」
 何となくもうすっかり労働組合員になったようなこの山尾主任の口振りに、均目さんが遠慮がちながらもげんなりした顔をして目を背けるのでありました。
「しかし今の段階では、社長と二部長の三人でこの暮れのボーナスの支給に関しては協議中なんですよね。未だ決定してもいない事柄に対して早手回しにこちらが労働組合結成だとか気炎を上げても、それは少しばかりせっかちだと云う気もしますけどねえ」
 頑治さんが山尾主任の意見に水を差すのでありました。
「確かに、未だ決まってもいのに早まった行動をするのも迂闊な話しだよなあ」
 均目さんが同調するのでありました。
「決まってからじゃ遅いんじゃないの」
 那間裕子女史が少し語気を荒くするのでありました。頑治さんや均目さんの態度が慎重と云うよりはちゃらんぽらんに見えているようであります。
「しかし向うの意志と云うのか、俺達に対する了見をちゃんと見極めた上で、止むに止まれずと云った感じで行動を起こす方が、こちらの行為の体裁上の正統性とか真剣味がより強く伝わるんじゃないかな。ここは先ず向こうの出方を見て、それが酷かった場合に一挙に怒りを表明すると云うのが、相手をたじろがすより効果的な方法だと思うよ」
 均目さんがここで急に、那間裕子女史とはフォーマルな場では丁寧語で話していた口調を、インフォーマルな場合にそうするざっくばらん調に変えるのでありました。この語調の変化は、均目さんのどういう気持ちを現しているのか頑治さんは俄には判らないのでありましたけれど、まあ、ちょっと気にはなるのでありました。
「じゃあ、均目君は取り敢えずボーナス支給日まで何もしないと云う意見なのね」
「何もしないと云うのか、前以て不満表明とかはしないと云う意見だね」
「でも、と云う事は、組合結成かどうかは別にしても、若しも支給されたボーナスがとんでもない額だった時に備えて、これでは納得出来ないと云うあたし達の団結した意志を示すための準備は、予めしておくと云う理解で良い訳ね?」
「まあ、それはしておいた方が得策に違いない」
「ボーナス支給日は何時なんですか?」
 頑治さんが二人の遣り取りに遠慮がちに言葉を差し挟むのでありました。
「今迄は大体十二月十日だな。その日が休日の場合は前日の九日になる」
 山尾主任が応えるのでありました。
「その日の結果が酷かった場合、均目さんは具体的にはどうする心算なのかな?」
 頑治さんは均目さんの方に顔を向けるのでありました。
「まあ、皆で土師尾営業部長を取り囲んで、納得出来ないから再考願いますと、貰ったばかりのボーナス袋だか金一封袋だかを一斉に叩き返すと云う事になるかな」
「全く金一封も出なかった時は?」
(続)
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