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あなたのとりこ 132 [あなたのとりこ 5 創作]

「去年は確か暮れのボーナスは二か月半分出たんだったよね」
 袁満さんが少し考える風に目玉を上方に動かしながら云うのでありました。
「そう。夏が二か月で暮れが二か月半」
 山尾主任が目玉を元に戻した袁満さんを見ながら頷くのでありました。
「それは諸手当も含めた賃金総額の、ですか?」
 頑治さんが山尾主任に訊くのでありました。
「いや、通例は基本給に役職手当を加えた額の、と云う事だね。住宅手当とか家族手当は算定の基準に含まれていない。尤も、ここに居る全員、家族手当は関係無いけど」
「ああそうですか。判りました」
 これまでのアルバイトとかでボーナス等は貰った経験が無いものだから、頑治さんは自分の基本給の二か月半分をざっと計算して見て、内心大いにほくそ笑むのでありました。しかしこの暮れはどうやら勝手が違うみたいでありますし、それに恐らく新入社員の自分は日割りとか小難しい計算をあれこれされて、満額は出ないでありましょう。それに抑々その二か月半が大いに怪しい雲行きなのを皆で憂慮しているのでありますから。
「社長や土師尾営業部長の魂胆や目論見は論外としても、片久那制作部長はそれならどのくらい出そうと云う腹心算なんでしょうかね?」
 均目さんが山尾主任に視線を向けるのでありました。
「さあ、それは聞かなかったし、向こうも何も云わなかったけど」
「二か月分かな。それならまあ、不満だけど一応納得は出来る」
 袁満さんがそう云って思わず口元を綻ばすのでありましたが、那間裕子女史にその顔を見咎められて険しい目をされたものだから、慌てて頬から笑いを消すのでありました。
「袁満君、二か月半でも不満だったんだから喜べないわ。それに大体、二か月と云う観測は甘いんじゃないの。精々一月か、或いは半月分と考えた方が良いんじゃないの」
 那間裕子女史にきっぱり窘められて袁満さんは意気消沈して俯くのでありました。
「いや、それもひょっとしたら甘いかも知れない。謝礼金とか慰労金とかの名目で、ほんの少額の金一封、と云う事だって考えられますよ」
 均目さんがより悪い推測を述べるのでありました。
「そうね、それなら社長や土師尾営業部長を説得し易いでしょうしね」
 那間裕子女史が頷くのでありました。
「しかしそうなると自分達の取り分の事もあるから、基本給プラス役職手当の一か月分とか、或いは半月分とか云う計算を片久那制作部長はしているんじゃないのかな」
 山尾主任が腕組みしながら云うのでありました。
「どうせ聞くならちゃんと、具体的な腹心算額まで聞けばよかったのよ」
 那間裕子女史は山尾主任に冷眼を向けるのでありました。那間裕子女史は山尾主任の後輩で一つか二つ歳下の筈でありますが、物腰に遠慮は全く無いのでありました。
「第一、あの二部長が俺達と同じ計算式の下に在るのか、そこも怪しいですけどね。あの二人は別格扱いで、そこそこの額はちゃっかりぶん取る心算なのかも知れないし」
(続)
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