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あなたのとりこ 126 [あなたのとりこ 5 創作]

「制作部は新聞の求人広告で、他は職安でと云う採用の決まり事ですか?」
「別に決まり事じゃないと思うけど、何となくそんな風だよね」
 均目さんが那間裕子女史に同意を求めるのでありました。仕事中は均目さんは先輩後輩及び歳上歳下の間柄から那間裕子女史とは敬語を使って話すのでありましたが、一端仕事を離れるとぐっとくだけた話し振りのようであります。これも二人が好い仲である事の左証と、勘繰れば勘繰る事の出来る言葉遣いと云えなくもないでありましょうか。
「ウチの会社に将来性はあると思う?」
 那間裕子女史はそんな話題に移るのでありました。
「さあどうでしょう。入社し立ての俺には判りませんが」
「はっきり言って無いわよ」
 単刀直入と云えば慎に単刀直入であります。「あたしが入社して以来、多少のムラはあるにしても業績はずっと下降しているわよ」
「でも去年は共済組合関連の特注仕事で羽振りが良かったけど。年二回のボーナスも結構出たし、久々に社員旅行もあったし。まあ、俺は最初の社員旅行参加だったけど」
 均目さんが那間裕子女史の観測に少しの異を唱えるのでありました。
「あれは全くのフロックよ。そんな話しが片久那制作部長の学生時代の知り合いから偶々舞い込んで、一時的に忙しかっただけ。ウチの営業が取ってきた仕事じゃないわ」
「まあ、それは確かにそんな経緯だったけど」
「大体ウチの営業は運頼みで、それに無駄が多いのよ」
 那間裕子女史は一杯目のジントニックを飲み干すのでありました。「適当に取引先に顔出しして、あわよくば何か仕事を貰おうとするだけ」
 これはどうやら土師尾営業部長と日比課長がやっている都内営業の事のようだと、その辺りは頑治さんにも判るのでありました。
「それもただ相手の会社に顔出しするだけで、例えば接待だとかして相手にしっかり食い付こうとはしていないしね、確かに。単なる気紛れな御機嫌伺い以上では無いよな。土師尾営業部長が無類のしみったれだから、その辺に金を全く遣わない」
「あっさりしていると云うのか、淡々として強引、強欲ではない、と云う事かな」
 頑治さんが別に義理も無いのでありますが擁護の言をものすのでありました。
「良く云えばね。しかし要するにしたたかな計画の下に積極的で戦略的な営業を展開しないと云う事さ。お殿様商売みたいなものでのんびりにも程があると云うものだ」
「景気が良かった時代はそれでも構わなかったけど、この不景気のご時世ではそんなの通用しないわよ。それでいてその反省も無くて何時もあたふたして、土師尾営業部長の方は日比さんの、日比さんは土師尾営業部長のせいにするだけ。二人共頭が悪いのよ」
 那間裕子女史は容赦が無いのでありました。
「袁満さんとか出雲さんの出張営業の方はどうなんですか?」
 頑治さんがそちらの方に話しを向けるのでありました。
「ああ、そっちもあの二人に営業力もやる気も無くてちゃらんぽらんだからじり貧よ」
(続)
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