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あなたのとりこ 330 [あなたのとりこ 11 創作]

「俺もその方が良いと思うっスね」
 この間漸く自席を立ってこちらに来ていた出雲さんも、別にこちらは那間裕子女史から何かサインを送られたのでもないのに、自ら賛意を表明するのでありました。
「別に社長なんかに遠慮する義理は何も無いけど、・・・」
 甲斐計子女史はそう云ってから少し思い煩うような表情をするのでありました。
「何となく組合と云うものに胡散臭さとか警戒心を抱いているのかな?」
 袁満さんが甲斐計子女史の心の内を察するのでありました。
「そう云う訳じゃないけど、今迄そんなものに縁遠かったから少し抵抗があるのよ」
「社長や両部長の横暴に対して、一人一人で個人的に文句を付けるのはしんどいから、従業員全員で当たろうと云う趣旨で組合を創ったんだよ。だからさっき唐目君が云った通り何かと心強いよ、今回みたいな問題が起こったりした時には」
「デモとかやるんでしょう?」
「まあ、場合に依っては、ね」
「あたし嫌いなのよね、そう云うのって」
「デモとか決起集会とか、そんなに頻繁にやる訳じゃないし」
「でも、最終的には共産主義運動なんでしょう?」
「そんな事はないですよ、全く」
 これは均目さんの言葉でありました。「どこの政党を支持しようと、どんな政治信条を持っていようとそんなのは個々人の自由ですよ。そこ迄組合は干渉しないし。ただ会社の中で弱い立場の者が団結して強い者の横暴に立ち向かおうと云うのが主旨ですよ」
 この均目さんの云い草を聞きながら頑治さんは、これは日頃の均目さんの組合に対する了見とちと違うんじゃないかなあと首を傾げるのでありました。
 均目さんは全総連の濃厚な政治性とか、後ろに付いているであろう政治政党に対して大いに批判的な事を常々云っていた筈であります。それをここではさて置いて、幾ら甲斐計子女史をオルグするためとは云え、こう迄も横瀬氏や派江貫氏のコピーみたいな言辞を弄して憚らないのは、些か不謹慎、或いは軽佻浮薄と云うものでありましょう。
「そうだよねえ、唐目君」
 頑治さんが自分に対して呆れたような笑いを送っているのを見咎めて、均目さんは頑治さんに向かってそんな同調を求めるようなもの云いをするのでありました。
「ま、建前としてはそうには違いないけどね、一応は」
 頑治さんは苦笑いながら皮肉っぽく返すのでありました。
「変な心配しなくても大丈夫よ。組合は会社の事だけをあれこれ対策するだけで、会社を離れた私生活には全くタッチしないものだから」
 那間裕子女史も甲斐計子女史の説得に掛かるのでありました。
「組合に入らないと、孤立して社長の云いなりになるしかないよ」
 袁満さんが半分脅しに走るのでありました。自分に向けられる諸々の説得や脅しや宥め賺しに、甲斐計子女史は悩まし気な表情で身を縮めているのでありました。
(続)
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