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あなたのとりこ 316 [あなたのとりこ 11 創作]

「どっちが喧嘩が強いかなんて事云っているんじゃないわよ」
 那間裕子女史は袁満さんを睨んでげんなりしたような口調で云うのでありました。
「いやまあ、それは判っていますけど」
 袁満さんはこちらも白けたような口調で云って、やおら拳を解いて腕を下ろすのでありました。ほんの冗談の心算で発した言葉だったのに、興醒めにも那間裕子女史に本気の言葉として受け取られたのは、ちょっと心外であると云うところでありますか。
「社長と少しじっくり話をするには、良いチャンスかもしれないですよ」
 頑治さんが声を上げるのでありました。「これ迄社長とは、皆さんはあんまり親しく話しをした事がないんでしょう?」
「まあ確かに。社長は普段も下の紙商事とは違ってウチの方には顔を滅多に出さないし、忘年会とかにも余程気が向かないと出てこないからなあ」
 袁満さんが頷くのでありました。
「親しく言葉を交わしてみたら、社長の意外な為人が判るかも知れませんよ」
「別に、社長の為人とかにはあんまり興味が湧かないけど」
 均目さんが憎まれ口調で云うのでありました。
「でも社長は俺達個々の為人とか考えとかを多少なりとも知りたいと思ったから、ここにきて一緒に酒を酌み交わそうと誘ったんじゃないのかな」
「成程、社長とのコミュニケーション、と云う意味ではこう云う機会は無意味ではないかもね。今までは両部長経由でしか社長の動静なんかは俺達に伝わらなかったから」
 均目さんが憎まれ口調を改めて、指先で顎を撫でながら云うのでありました。
「でも土師尾さんと片久那さんがその席に居ないなら、少しは意味もあるけど」
 那間裕子女史が少し愚図るように云うのでありました。
「そりゃそうだ、社長も土師尾営業部長や片久那制作部長が居たんでは、おいそれと羽目を外して色々喋り辛いだろうからなあ」
 袁満さんが那間裕子女史の意見に同調するのでありました。
「グッとくだけた四方山話しをするなら、二人が居ようと居まいと関係ないんじゃないですかね。別に会社の機密事項とかを聞き出す魂胆がこちらにある訳じゃないんだし」
 頑治さんがちっとも深刻ぶらない声で云うのでありました。
「でも社長とあたし達が何の話しをしているのかとか、その話す雰囲気とか仕草とか口調なんかを、片久那さんが傍で、全く興味が無いような振りをしながら、でもじっくり観察していそうで、そう云うのが何かちょっと鬱陶しいわね」
 那間裕子女史が顔を顰めるのでありました。
「別に観察されていても、こっちがあっけらかんとしていれば良いんじゃないかな。片久那制作部長に聞かれて困るような話しなんか、どだい社長とはしないし」
 袁満さんが、今度は頑治さんの気分に早速染まった風に云うのでありました。「折角のお誘いなんだから、それに乗った方が今後あれこれと好都合な事もあるかも知れない」
「まあ、それはそうだけど」
(続)
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