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あなたのとりこ 314 [あなたのとりこ 11 創作]

 片久那制作部長は労働組合が出来た事で、尚且つその労働組合とほぼ一人で春闘で渡り合ったのでありましたから、その後少しは社員に対する場合に、気兼ねとか遠慮とか、或いは何に依らず対抗的な物腰とか、より厳しい査定目線とかがが入ったりするのかと思われたのでありますが、外面的には前と何ら変わらない様子でありましたか。それはそれ、これはこれ、と云った気持ちの上での割り切りが明快にあるようであります。
 それに多少は社員の行動力みたいなものは見直したかも知れませんが、あくまで、多少の見直し、以上ではなさそうであります。確かに社員個々の仕事に於ける能力は、組合が出来たからと云って急に変わるものではないでありましょうしから。
 ところが土師尾営業部長の方は、袁満さんと出雲さんに対する時の態度が大いに変わったようでありました。勿論この人の事でありますから、袁満さんの言を借りれば、何に付け喧嘩腰で来るし、袁満さんや出雲さんの言辞や行動の粗探しをするような目線が露骨になって、益々始末に困る上司になって仕舞ったようでありました。
 それは多分団交の席で自分の残業算定での、曖昧で自分だけに都合の好い無基準な辺りを暴かれて、社長や社外の人の面前で大いに恥をかかされたのを逆恨みしてであろうと、これも袁満さんの観測に依る分析でありました。それに春闘での組合との交渉に於いては片久那制作部長の独壇場を許して、社長に自分が大いに頼りになるところやら、丁々発止と組合と優位的に渡り合っているところをさっぱり見せられなかったのを恨みに思って、と云う無念もありはしますか。こちらの方は均目さんの観測になりますが。
 まあ土台、土師尾営業部長には、互角以上に渡り合うだけの知識も経験も能力も俄然不足しているのだし、これまでに数々の団交に臨席してきた交渉の手練れたる横瀬氏や来見尾氏を相手に、優位的に議論を戦わせる事等は到底不可能と云うものでありましょう。しかしそう云う自己の不明を身の程知らずに棚上げして、片久那制作部長にある種の嫉妬のような感情を抱いて仕舞うのは、これはもう如何にもこの人らしい心根の卑しさと云うべきであると、これは那間裕子女史の均目さんの観測を受けての評価でありました。
 とまれかくまれ贈答社の従業員はこうして、一種目出たい気持ちと、久々に得たこれも一種の落ち着きを以って四月一日からの新年度を迎える心算でいたのでありましたが、なかなかそう上手く事態は進展しないのが世の常と云うものであります。寧ろここ迄はこの後のもっと大きな波乱の序章、と後に思えば思えるような一段落でありましたか。

   不測の事態

 新年度初日に、今迄そんな事等一切無かったようでありましたが、社長からインフォーマルに全従業員に酒席の誘いがあるのでありました。社長の腹としては組合結成やら春闘の団体交渉で少なからずギクシャクした社内の人間関係を、多少なりとも良好に修復したいと云う表向きでありました。これは社長のしおらしさの表出とも受け取れるのでありましたが、もっと他にうっかり乗れない何かの魂胆を疑えば疑えるのでありました。
「どうする、応じるかい?」
(続)
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