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あなたのとりこ 311 [あなたのとりこ 11 創作]

「部長でも組合に入る事が出来るんですか?」
 袁満さんが横瀬氏に怪訝な顔で訊ねるのでありました。
「まあ、組合に依るけど。排除しないところもあれば、課長迄とか制限しているところもあるかな。でも均目さんが云うように従業員であると云う点は間違いない」
「社長は片久那制作部長を畏れているし苦手にもしている。それに自分の側の人間として全幅の信頼を置いている訳でもない。寧ろ経歴を考えれば、労働組合側にシンパシーを感じているようにも思える。だから、片久那制作部長が組合側に付くかも知れないと云うのは、社長にとっては結構リアリティーのある危惧と云う事になるかな」
「ああ成程ね。そう云われればそうかも知れない」
 袁満さんがこの均目さんの社長の了見分析に大いに頷くのでありました。「だったら機嫌を損ねないためにも、社長は片久那制作部長の意向に逆らえない訳だ」
「だからこちらも同様に留意しておくべきは、社長や土師尾営業部長なんかより、片久那制作部長の機嫌という事になる。そう云う意味で云うと、あんまりガツガツして片久那制作部長の労を簡単に無意味にして仕舞うのは、あんまり上手いやり方ではないかな」
 均目さんはそう云いながら那間裕子女史の方をチラと窺い見るのでありました。これはつまり均目さんとしては先の那間裕子女史の、取れる時にギリギリ取れるだけ云々、と云う意見には賛同しないとの表明でありましょう。均目さんと那間裕子女史を比較すると、均目さんの方がやや穏健派的な考えを持っていると云う事になりましょうかな。
「ひょっとして片久那制作部長が組合に入る事になれば、何だかこっちも、ちょっと嫌な緊張感があったりして身構えて仕舞いますよね」
 出雲さんが少し話題をズラして苦笑うのであありました。
「確かにあの行動力と迫力で、俺達より随分前に突出される恐れがあるかな。俺達の意見なんか甘っちょろくて聞いていられないと云った感じで、組合を大いに戦闘的左派みたいにして仕舞うに違いない。嘗ての新左翼運動家の情熱を以ってさ」
 均目さんが冗談口調で云うのでありました。「でもまあ、片久那制作部長が俺達の組合に入ると云う目は、全くと云って良い程無いと断言出来るよ」
「ああそうですかねえ」
 出雲さんは均目さんの断言にやや安堵の表情をして見せるのでありました。
「片久那制作部長は全共闘の闘士だった学生時代、同じ左翼であるはずの或る政治政党にひどい裏切りをされて以来、その政党の匂いのある団体には敵意丸出しだからね」
 均目さんは遠慮がちに横瀬氏と来見尾氏の方に横目をして見せるのでありました。要するに、その政党の匂いのある団体、と云うのが、全総連である事をそれなく出雲さんに仄めかそうと云う魂胆でありますが、出雲さんはそんな込み入った示唆には無頓着と云った鈍い表情で、均目さんのものす事情が良く呑み込めないようでありました。
「要するに全総連にその政党の匂いがあるから、その傘下での組合活動は、片久那制作部長は絶対しないだろうと云う事かな、均目さんが云わんとしている事は」
 出雲さんより、寧ろ当然、横瀬氏の方が均目さんの言を聞き咎めるのでありました。
(続)
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