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あなたのとりこ 303 [あなたのとりこ 11 創作]

「博物館の仕事はいつから始まるの?」
「勿論、年度初めの四月一日」
「じゃあ、向こうに帰ってからも、時間が無いからその日迄はバタバタしそうだな」
「まあそうかも知れないけど、でも何が何でも四月一日までに片付けて仕舞わないといけない事は特に無いから、案外と気楽な心持ちよ」
「就職するに当たっての意気込みとかはどんなものかな?」
「気負いは無いけど、新しい環境には多少興味と不安はあるかもね。それに大学と共同の大掛かりな発掘調査の仕事が目前に控えているから、すぐにそちらの具体的な仕事に取り掛からなければならないようだし、あれこれ戸惑っている時間なんか無さそうよ」
「ふうん。まあつまり博物館側としても、大いに期待の持てる新人が好都合に折も良く入って来たぞ、とか云ったところかな」
 頑治さんとしては夕美さんの幸先が好からんことを願うばかりでありましたか。
「頑ちゃんの会社の方はどうなの?」
 夕美さんはコーヒーカップを持ち上げながら訊くのでありました。
「明後日が春闘の二次回答日指定日かな。ま、幸いにも、紛糾したり拗れたり、難しい局面が出来したりと云った可能性は低いと思うけど」
「それは、順調、と云う事?」
「まあ、変な風にはなっていないと云うところかな」
「頑ちゃんのお給料はグンと上るの?」
「グンとじゃなくて、まったりと上る、みたいな感じかな」
「まったりと?」
「賃金上昇率でみると例年並みかやや高、と云ったところみだいだし、暮れのボーナスがあんな風だったから、それだけ確保出来れば御の字と云う雰囲気かな。完全な年齢別賃金になるんで俺は是正分が付くから、やや高、の口になるかな」
「業務は他の職種に比べて割りが良くなかったのね」
「そうね、会社の売り上げに重大に関連している職種では無いからね。まあ云ってみれば縁の下で様々な雑用をする、みたいな仕事だし」
「でも、会社には無くてはならない仕事でしょう」
「それはまあそうだけど、でも正直、俺はそんなに自分の業務仕事にプライドを持っているかと云うと、なかなかそんな訳でもないしね。一定の配慮と忍耐さえ持っていれば、熟そうと思えば誰にでも熟せる仕事だよ。だから営業とか製作なんかに比べると給料が安いのは仕方が無いと思っていたし、年齢別賃金の恩恵を一番受けるのは俺かも知れない」
「でも地図とかの制作の仕事もさせられているんでしょう?」
「それはまあ、そうだけど」
「若しあたしが頑ちゃんの上司だったとしても、確かに頑ちゃんに業務の仕事だけをやらせておくのは勿体無いと感じると思うわよ」
 夕美さんは口元のカップを少し下げて真顔で頷くのでありました。
(続)
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