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あなたのとりこ 289 [あなたのとりこ 10 創作]

「さてさて、本当にどんな回答書が出て来るのかなあ」
 満額回答は絶対ないと云われて少し気落ちした風情の袁満さんを横目で見ながら、均目さんが不安なような少し楽しみのような面持ちで云うのでありました。
「あの、転んでもただじゃ起きない片久那さんの事だから、ちょっと捻った、こっちの意表を突いたものを出してくるんじゃないかしら」
 那間裕子女史は自分が今ものした、ちょっと捻った、のその、捻り具合についてあれこれ考えるような面持ちで応えるのでありました。「唐目君、どう思う?」
「捻ったとしても、あくまで回答書ですから捻り方にも限度があるでしょう。あんまり捻り過ぎても返って誠意を疑われるから、案外素直な回答になるかも知れませんよ」
「でも、あの人は意表を突いて相手の混乱に乗じる狡猾さがあるし」
「ま、どんな回答書が出てきても、混乱した顔をしななければ良いんじゃないですか」
「でも、混乱するかも」
「そう云う恐れを今から考えているんだから、混乱したとしてもしていない表情をこちらも用意出来るでしょう。内容については、若し何やら込み入ったものだったら、回答内容についての説明は受けるとしても、その場で色々議論しないで、持ち帰ってじっくり検討して受け入れるかどうかを決めると宣して、即座に退場すれば良いんじゃないですか」
「ああ成程ね。片久那さんの早い頭の回転のペースに乗らないためにも、すぐにやりとりしないで、一旦持ち帰った方が確かに無難かも知れないわね」
 那間裕子女史は頷くのでありました。
「まあ、そう云った対応の仕方や、譲れる線と譲れない線をはっきりこちらも意思統一して置く必要があるかな、これから二週間後の回答指定日に向けて」
 均目さんのその言が、何となくこの場の締めくくりの言葉になるのでありました。夫々は自分の食い残しているピラフやらサンドイッチやらカレーライスやらを銘々平らげて、コーヒーをグイと喉に流し込んでから散会するのでありました。家に帰る袁満さんと出雲さんと駅で別れて、那間裕子女史と均目さん、それから頑治さんの三人は新宿の馴染みの洋風居酒屋に行って、もう少し一緒の時間を過ごすのは件の如し、でありましたか。

   夫々の去就

 この間夕美さんは市の職員採用試験もそつなくパスして、三月下旬の大学院卒業を待って愈々四月から市立博物館に奉職する段取りを調えるのでありました。卒業までは在学中に比べれば比較的暇なようで、その分名残りを惜しむように頑治さんとの逢瀬も頻繁となるのでありました。これは頑治さんにしたら短い時間幅では嬉しくもありと云ったところではありましたが、夕美さんがもうすぐ東京を離れて仕舞うと考えれば、それ程嬉しがる状況ではないとも云えるのでありました。まあ、その後も交際は継続するとしても。
「これ、頑ちゃんの部屋に置いておいてね」
 夕美さんは頑治さんに、持ってきたバッグを差し出して見せるのでありました。
(続)
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