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あなたのとりこ 284 [あなたのとりこ 10 創作]

 那間裕子女史が横瀬氏の言を受けてそう付け加えるのは、那間裕子女史は特段、自分達の横瀬氏や来見尾氏におんぶに抱っこ加減を気に病んではいないと云う事でありますか。多分均目さんがちらと感じたのとは趣を異にして、那間裕子女史は社長室での自分達の振る舞いに、然程の後ろめたさや情け無さを感じてはいないようであります。
「流石に弁護士をやっているだけに、余計な言質は取られないようにと気を付けていたんでしょうね。まあ、あの場では弁護士として普通の対応と云えますね」
 来見尾氏が弁護士先生の態度について解説するのでありました。まあそんな事は頑治さんごときでも考え得る事ではありましたけれど。
「それを察しないで、社長ときたらおっちょこちょいにも一生懸命、自分が大度である辺りを見せようとして見たり、甚だ甘くはないところもひけらかそうとしたり、事と次第に依っては経営者として血も涙も無い人間である点も仄めかそうとしたりで、あれこれ余計な事をペラペラ喋ったりするものだから、弁護士としては大いに困ったと思うわ」
 那間裕子女史は社長を茶化すような云い草をするのでありました。
「横で無愛想にダンマリを決め込んでいる片久那制作部長も困ったと思うよ」
 均目さんが云うのでありました。「経営を放り出さないように脅したりご機嫌を取り結んだり、時に社長としての体裁を付けさせてやったりで、色々扱いに手の掛かる人だからねあの社長は。典型的な一昔前の、大もの気取りの零細企業経営者と云った感じだ」
「意外にもの分かりが良いようにも見えたけどねえ」
 横瀬氏が社長の為人をそんな風に評価するのでありました。
「何かと云うとすぐ好い格好をしたがるから、そう云う風に見えただけですよ」
 袁満さんも社長には辛口でありました。

 ここ迄で派江貫氏と来見尾氏が夫々、自分の会社の要求提出後の集会に赴くためにこの会合から抜けるのでありました。
「横瀬さんから見て、今日の我々の仕様はどんな感じでしたかね?」
 均目さんがそんな事を訊ねるのでありました。
「まあ、殊更感情的でもなくてクール過ぎもせず、概ね良かったんじゃないかな」
 横瀬氏は当たり障りのない返答をするのでありました。「変な紛糾も無かったし」
「我々の気持ちは向こうに充分伝わりましたかね?」
「それはまあ、大丈夫でしょう。要求内容もちゃんと目を通せば至極まともな域にある事は判るし、大体何より、止むに止まれず従業員が一致団結して組合を創ったと云うだけでも、向こうは大いにたじろいだ筈だし、先ずは上首尾と云えるだろうね」
「残業時間の算定の話しになった時に、土師尾営業部はまた血が頭に昇って大袈裟に大騒ぎし出すかと思ったけど、案外大人しかったから良かったよ」
 袁満さんが振り返るのでありました。
「事前に社前集会も目撃したし、雰囲気もあの人の無意味な反駁なんか許さない厳正な感じだったし、土師尾営業部長があの場で一番、気配に飲まれていたんじゃないかしら」
(続)
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