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あなたのとりこ 283 [あなたのとりこ 10 創作]

「じゃあ結局、向こうは社長と両部長で対応したんだ」
 これは派江貫氏の横瀬氏に向かっての質問でありました。
「いや、大急ぎで顧問弁護士も呼んだよ」
 横瀬氏が応えるのでありました。「弁護士先生と片久那制作部長が来たら少し安心して強気になったのか、俺と来見尾さんを指差して、会社に関係の無い部外者は外してくれとか云い出したけど、弁護士先生が慌ててそれを止めていたよ」
 横瀬氏はそう云って失笑を見せるのでありました。
「外のシュプレヒコールは聞こえましたか?」
 頑治さんがまた訊くのでありました。
「うん。演説の方もバッチリ。ウチの社名が聞こえて来る度に、社長は苛々ソワソワと苦り切ったような顔で気を散らしていたよ」
 袁満さんがここでも痛快そうに応えるのでありました。
「片久那さんは例に依って無愛想面で腕組みしてダンマリを決め込んでいたし、土師尾さんは外の集会を目撃したせいか、怖じ気付いて借りてきたネコのようにしおらしくなっていたわ。だから対応は主に社長と弁護士先生と云う事になったけど」
 那間裕子氏が社長室内の描写を始めるのでありました。「ほら、社長は内側の人間に対しては態度も口の利き方もぞんざいだけど、外の人が居ると格好を付けて急に紳士になるじゃない。だからさも落ち着き払ったような態度なんだけど、内心は気が動転しているものだから云う事が頓珍漢で無神経で、或る意味無邪気で、竟々云わないでも良いような事をうっかり口走ったりして、その都度慌てて弁護士先生に窘められたりしていたわ」
「まあこっちも、話しの進め方と云う点では横瀬さんと来見尾さんにおんぶに抱っこで、社長とあんまり変わらなかったと云えば変わらなかったけどね」
 均目さんが自嘲も交えて云うのでありました。
「まあ、皆さんは未だ若いから、ああ云えばこう云うみたいな老獪さは、百戦錬磨の横瀬さんに任せて正解だったと云う事ですよ。そのために全総連が付いているんだから」
 来見尾氏が慰める心算か、そんな事をものすのでありました。
「じゃあ、向こうの弁護士先生と横瀬さんが、実質的にその場の遣り取りを取り仕切ったような感じですかね、全体の話しの進み方としては」
 頑治さんはそれでは何となく情け無いかなと秘かに思うのでありました。
「要求書の読み上げは勿論だけど、回答指定日の厳守の点とか、団交後は一日ストライキに入るけど、それは有給休暇とは別枠で有給保証しろとか、そう云った肝心の文言は袁満さんの方から言い渡して貰ったし、あくまで私と来見尾さんは補佐役と云う感じですよ。袁満さんも他の人も初めての経験にしては、なかなか立派な立ち居振る舞いでしたよ」
 横瀬氏が心からか心ならずか、一応持ち上げるのでありました。しかしそれは当の当事者としては如何にも当然であり、しかも予め打ち合わせしていた科白でありますし。
「弁護士先生は取り敢えずこちらの要求を聴く、と云うスタンスで、取り乱した社長のように何やかやと無用な口を挟まなかったから、それもスムーズに行った要因ね」
(続)
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