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あなたのとりこ 267 [あなたのとりこ 9 創作]

「頑ちゃんさえ、例え傍にあたしが居なくても、あたしの事を何時も大事に考えていてくれるなら、そうじゃない?」
 夕美さんはたじろぐ程強い眼差しで頑治さんを見るのでありました。
「それはそうだけど、・・・」
 頑治さんはオドオドと気圧されたように呟くのでありました。
「そんな自信が無い、って云う訳?」
「いやそうじゃないけど、でも、傍に居るか居ないかは重大な問題じゃないのかな」
「当人次第よ」
 夕美さんは力強く頷いて笑むのでありました。
「夕美の方はどうなんだろう。故郷に帰って新しい環境で色んな人と出会うだろうし、仕事を始めればあれこれこちらでは体験出来なかったような事も体験するだろうし、そんな事を押し退けて、遠く離れている俺の事を第一番に考え続ける事が出来るのかな」
「勿論よ」
 夕美さんはあっさりと請け合うのでありました。そのあまりのあっさりした云い草に頑治さんはほんの少しの疑義を感じて仕舞うのでありました。如何にも心強そうに請け合う手合いに限って、後日決まって断言した事とは違う結果を導き出すものであります。
「嫌に簡単に云うなあ」
「信用出来ない?」
「いや、そんな訳でもないけどね」
「そんな訳でもないけど、でも信用出来ない?」
「まあ、遠く離れた人を変わらず思い続けられるなんて、きっぱり請け合える程簡単な事じゃない、と云う事だよ。何と云っても生身の人間なんだから、了見が変わる事だって無いとも云えないし、それにこの世の中、先に何が起きるか判らないし」
「でも、あたしは大丈夫なの」
 夕美さんは子供のような天真爛漫さで云うのでありました。「色々考えも変わったし、色んな人とも出逢ったし、高校生になってからは頑ちゃんが傍に居た訳でもないけど、でもあたしの気持ちは中学生だった頃と何も変わらなかったわ、頑ちゃんの事に関しては」
「中学生の頃から?」
「そう。天地神明に誓って、それは本当の事よ」
 夕美さんはそう云った後で少し気恥ずかしそうに頬を赤らめるのでありました。「あたし中学生の時から、間違いなく頑ちゃんと将来一緒になるんだって信じていたの」
 頑治さんはこれ迄の生の中で、これ程熱烈で、排他的で、独りよがりの、しかも蕩けるように心地の良いお惚気を聴いた事が無いのでありました。しかも自分を対象として、と云うのでありますから、もう、どう云う言葉を返して良いものやらさっぱり見当も付かずに、当座の反応としては唸るしか手は無いと云うものでありましたか。そんなにっちもさっちも行かなくなった頑治さんを尻目に夕美さんは続けるのでありました。
「運命、とか云う感じよ。あたしは中学生にして将来の自分の運命を知っていたの」
(続)
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