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あなたのとりこ 266 [あなたのとりこ 9 創作]

 思わず頑治さんはしたり、と笑むのでありました。天意は夕美さんが東京に残る事を示したのであります。天の意志ならば諸般の事情は屹度乗り越えられるでありましょう。
 いやしかし、ひょっとしたら微妙な力加減で右手の松葉の方が有利に作用したとも考えられるのであります。そうなるとこれはもう天意なんかではなく、単に頑治さんの願望に依る贔屓が働いた結果とも云えるのではないでありましょうか。
 頑治さんは再び松葉を取ると同じ事を繰り返すのでありました。前以上に慎重に、今度は松葉を掴む左右の親指と人差し指の力加減にも気を払って、公正無比に両腕を小さな振幅で引き離すのでありました。今度も右手の松葉は崩れないのでありました。
 これでも未だ確信が持てない頑治さんは三度目を試みるのでありました。そうして三度目も右手の松葉が強固に二股を保持しているのでありました。
 三度占って三度共に右手の松葉が勝利したのでありますから、これはもう、間違いのない天意がここに示されたのだと云えるのではないでありましょうか。そう考えて、或いはそれ以外の疑いを敢えて考えないで、頑治さんは暫し感奮に包まれるのでありました。
 しかしその感奮は俄に吹き過ぎて行った冬の夕風に、すぐに剥ぎ取られて仕舞うのでありました。頑治さんは苦く笑うのでありました。それから右手の松葉をぞんざいに前に放るのでありました。左手の松葉も同じように放るのでありました。道に落ちた松葉はまた吹き来った風に翻弄されながら、頑治さんの視界から消えるのでありました。

 あの時の松葉占いでは夕美さんは故郷へ帰る事無く東京に残る、と天意が明快に示された筈なのに。・・・頑治さんは心の中で力無く笑みながら呟くのでありました。
「頑ちゃん、どうしたの?」
 夕美さんが頑治さんの顔を覗き込んでいるのでありました。
「夕美が故郷に帰る事になるかも知れないとは、一応覚悟はしていたんだけどさ」
「そんな悲しそうな顔をしないで」
 夕美さんが手を伸ばして頑治さんの頬を触るのでありました。
「でもまあ、この二年間は、まあ二年とちょっとだけど、兎に角楽しかったよ。大学の学食で思わぬ形で夕美と再会して、それから二人で色んな楽しい事をしたし」
 頑治さんがそう云うと夕美さんは頑治さんの頬に触っていた手を急に引っ込めるのでありました。如何にも唐突なその仕草の謂いが了解出来なくて、頑治さんは夕美さんの顔を戸惑ったような目容で見るのでありました。
「何だかこれで、あたしと頑ちゃんの永遠の別れ、みたいな云い方ね」
「永遠かどうかは判らないけど、でもまあ、重たい一区切りではある。少なくとも夕美はこれから先は、何時も俺の傍には居ない」
「確かに体は何時も傍に居ないけど、それでも何時も傍に居る事は、出来るわ」
 それはレトリックとしては成立しても、現実には、ほぼ永遠の別れではないかと頑治さんは首を傾げるのでありました。別れと云う現象は、大方は或る切っ掛けから関係が次第に希釈されていって、竟には跡形も無く解消するものではないでありましょうか。
(続)
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