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あなたのとりこ 250 [あなたのとりこ 9 創作]

「歯車の噛み合わせ、と云うのは間違いなく山尾主任の使った言葉だ」
 そう云えば以前に均目さんも那間裕子女史も、グアム島での結婚旅行から帰って来た早々の山尾主任の、無表情ながらもその下に隠れているかも知れない浮かない気分を察して、均目さんは理想主義と現実とのギャップ説、那間裕子女史は不条理説を頑治さんの前に披露してくれたのでありました。上手くいかないけれど決定的な理由が特に無い、と云うのもそうでありますが、歯車の噛み合わせ、と云う、使われたレトリックの象徴性からも、ここは那間裕子女史の不条理説に近いのかなと頑治さんは考えるのでありました。
「前に均目君や那間さんが感じて危惧していた通りの事が起こっているみたいだな」
「ま、そうね」
 均目さんは深刻顔で頷くのでありましたが、反面、自分の洞察が見事的中した事に、少しの誇らかな満足を覚えているような不謹慎も仄見えるのでありました。
「確かに最近頓にどこか悩んでいるような気配があったけど、仕事だけじゃなくて私生活の方でも色々と気苦労があったんだなあ」
「上手くいかない時は全部重なって上手くいかないものらしい」
 均目さんは箴言めいた事を口にしてしかつめ顔で頷くのでありました。
「勿論、山尾主任はそう云う状態を打開しようとしているんだろう?」
「どうなんだろうかねえ」
 均目さんは懐疑的な表情をするのでありました。「手をこまねいていると云うんじゃないだろうけど、何か積極的に動こうとしている様子は無さそうだなあ。焦ってはいるんだろうけど、どうして良いのか方策が見当たらないと云った感じかな」
「そんなもの、二人で腹を割って話し合うしかないじゃないか」
 と頑治さんは少し強い語調で云うのでありましたが、こう云う云い方は如何にも傍観者の、様々な辺りに思いを致さない無責任な暴言のようだと自分で思うのでありました。
「山尾主任にそれが出来れば、もっと前に危機は回避出来ただろうよ」
「まあ、それもそうだけど」
 頑治さんは語気を落として悄気たように云うのでありました。

 それから暫く経った或る日、また均目さんが倉庫に遣って来るのでありました。
「何か知らないけど、山尾主任の新妻さんが竟に家を出たらしいぜ」
「家を出た?」
 頑治さんはやっていた作業の手を止めるのでありました。
「この前の上野の居酒屋以来気を許したのか、相談がてら時々結婚生活の事を俺に知らせてくれるんだけど、今朝偶々片久那制作部長が未だ出社していなくて、俺と山尾主任しかいない時にそんな事をさらりと教えてくれたんだ。すぐに片久那制作部長が来たんでそれっきり話しは途切れたけどね。勿論那間さんは遅刻常習犯だから居なかった訳だが」
 この際那間裕子女史の遅刻は置くとして、竟に迎えるべき結果を迎えたと云ったところでありましょうが、頑治さんは少なからずの動揺を覚えるのでありました・。
(続)
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