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あなたのとりこ 248 [あなたのとりこ 9 創作]

「しかし抑々役職手当なるものは本来、労働組合の側がその手当額を決められるものではなくて、経営側に決定権があるものなんじゃないですかね」
 これは頑治さんの疑問でありましたが、向けられる先は山尾主任の顔でありました。
「でもまあ、役職手当が基準内に入っているのなら口出しは出来るんじゃないの」
 ここでも矢張り那間裕子女史が山尾主任より先に口を開くのでありました。那間裕子女史はなかなか均目さんや頑治さんの意を酌んでくれないようであります。
「大体、基準内賃金には基本給にプラスして、家族手当とか住宅手当とかが入って来るのが妥当なように思えるけどね。一般的にそうではないんですか?」
 那間裕子女史が横瀬氏に訊ねるのでありました。
「まあ、一概にそうとも云えませんけどね。会社に依って様々ですよ。しかし役職手当よりは家族手当なんかの方が、多くの従業員に恩恵があるとは云えますけど」
「基準内に役職手当が入らなければ、土師尾営業部長や片久那制作部長の納得を到底得られないんじゃないかな。そうじゃないとあの二人の基準内賃金がガクンと減るから」
 これは袁満さんの懸念表明でありました。袁満さんは両部長に吠え面をかかせて遣りたいと願う反面、若しそれで臍を曲げられて、先々土師尾営業部長に見境の無い報復にでも出てこられるのは大いに億劫で、尚且つ恐怖にも思っているようであります。
「山尾さんの主任手当も含まれない事になるし」
 那間裕子女史が山尾主任の方に顔を向けるのでありました。
「でも、主任の役職手当は四千円だけど、山尾主任は今般結婚したんで妻の家族手当がその分付くよ。妻の家族手当は確か八千円だから、増えると云う事になるな」
 均目さんが訂正するのでありました。
「ああそうか」
 那間裕子女史はあっさり納得するのでありました。「じゃあ、山尾さんの場合は、役職手当よりも家族手当が付いた方がお得な訳ね」
「俺は別にどっちでも良いよ」
 山尾主任は自分だけ役職手当を貰っている事を後ろめたく考えてか、或いはここに居る五人の中で自分だけに家族手当が付く事を恐縮してか、はたまた本当にどうでも良いと云う了見なのか、何となく捨て鉢な語調で曖昧に意思表明しないのでありました。
「まあ、営業部長は兎も角として制作部長の賛同を狙うなら、ここは矢張り役職手当を基準内に入れるのが妥当な線じゃないですかねえ」
 横瀬氏が纏めようとしてかそうアドバイスするのでありました。
「こうなったら役職手当も家族手当も両方含めて仕舞えば良いんじゃないですか。ま、どっちにしても俺に関係無い事になるけど」
 袁満さんが横瀬氏の意を酌まないでそんな事を云い出すのでありました。
「社長が絶対納得しませんよ。両部長にしたって緊縮財政方針を打ち出しているんだし、それでは方針と矛盾する事になるから体裁として絶対飲まないんじゃないですか」
 均目さんが云うその口調は袁満さんをあしらうような感じでありました。
(続)
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