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あなたのとりこ 245 [あなたのとりこ 9 創作]

 これは憶測ではありますが、晴れがましい筈の新婚生活も何か上手くいっていない様子であるし、仕事の方も新しい職種に変わって心機一転と云う目算もどこか歯車の狂いが生じているとなると、山尾主任は次第に追い詰められたような気になって仕舞うのではないでありましょうか。その内自棄を起こさないか心配でありますが、山尾主任はどちらかと云うと短気の方だし、楽天的と云う訳でもないから心配はいや増すばかりであります。
 山尾主任ばかりではなく今のところ具体的な動きは保留中と云う感じでありますが、出雲さんも新しい仕事が動き出したら、山尾主任と同じ困惑と焦燥が待ち受けているのかも知れません。まあ、こちらの方は山尾主任よりは諸事呑気なタイプではありますが。
 また、今迄二人でやっていた仕事を一人で熟さなければならなくなった袁満さんも、大変な思いでありましょう。幾ら出雲さんよりももっと呑気な方だとしても。

 組合結成準備会議の席でも山尾主任は精力的ではなくなっているのでありました。今迄は会議を積極的にリードしてきたと云うのに、気も漫ろと云う事ではないのでありましょうが、万事に自信を失くしている所為か発言数も妙に控え目なのでありました。
 職種に関わり無く同一年齢同一賃金と云う採択された方針の下、その体系を保証する新たな賃金式の策定を話し合っている時、最近頓に元気が無いのを気遣ってなのか、均目さんが山尾主任に敢えて発言を求めるのでありました。
「今大体詰められた案として、十八歳で十七万円として一歳増える毎の年齢加算を六千円とする案で、山尾主任は基本給の賃金式は妥当だと思いますか?」
 机上の資料に、肩を窄めて何となく気弱そうな風情で目を落としていた山尾主任は、そう訊かれて生気の無い陰鬱そうな顔をゆっくり起こすのでありました。
「この前から気になっていたけど均目君、その、山尾主任、と云う云い方は止してくれるかなあ。俺はもう制作部の主任じゃないんだから、その呼び方は不本意だなあ」
「でも主任手当は今まで通り給料に付いているし、それに俺としては名前に、主任、と付けた方が、さん、付けなんかより余程しっくりいくし」
 均目さんは均目さんなりの一種の励ましからか笑いながら逆らうのでありましたが、その反応として山尾主任が眉根を寄せて気弱そうなげんなり顔をするのを見て、均目さんは気後れたのかすぐに言を改めるのでありました。「まあそう云われるのなら今後は、さん、付けに切り替えますが、慣れるまではうっかり山尾主任、と云うかも知れませんよ」
 山尾主任はこの均目さんの言葉に力ない笑い顔で応えるのでありました。
「ええと、賃金式だよね」
 山尾主任は均目さんから求められた意見に復帰するために、もう一度机上の資料に目を落とすのでありました。「そうすると例えば、日比さんの方が片久那制作部長や土師尾営業部長より基本給は多いと云う事になるよね。それに甲斐さんも両部長と同じ額になる」
「それは不都合ですかね」
「両部長が納得しないんじゃないかな、それではとても」
「でも役職手当に依って総額で差を出す事は出来ますが」
(続)
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