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あなたのとりこ 244 [あなたのとりこ 9 創作]

「会話がぎくしゃくしてもそれを屁とも思わないあっけらかんとしたところがあれば、場の空気はそう重くはならないんだろうけど、山尾主任はそう云うタイプでもないし」
 頑治さんはここでようやくコーヒーカップを唇に当てるのでありました。
「片久那制作部長に唆されて営業に移ったけど、矢張り無理があったと云うしかない」
 均目さんは口に当てたカップを急角度に傾けてコーヒーを飲み干すのでありました。
「片久那制作部長は何かフォローしないんだろうか」
「しないだろう」
 均目さんが顔の前でコーヒーカップを小さく何度か横に振るのでありました。「好都合にも制作部から追い出したんだから、後は自分の知ったこっちゃないだろうな」
「何か冷たいな」
「大体がそう云う人だよ。気に入らないヤツとか有用と思われない人間に対しては、びっくりするくらい冷淡で過酷な真似をする時がある」
「それにしちゃあ土師尾営業緒部長や社長に対しては控え目だよな」
 こう云いながら頑治さんはこの後に、別に土師尾営業部長や社長が有用でない人と云う心算は毛頭無いけれど、と続けようとして続けないのでありました。
「控え目と云うのはその人間に対して無関心と云う事さ。社長には、一応誰彼は別にしてその役職に対しては敬意を払うと云うスタンスかな。後は経営者として臍を曲げられると現実的に拙いから無難に接していると云う都合もあるんだろうけど」
「まあ確かに土師尾営業部長に接する態度は、とても敬意のある接し方とは見えないけれどね。こっちも一応無難な線で納めてはいるようだけど」
「そう云う事、そう云う事」
 均目さんはコーヒーカップを受け皿にやや騒がしい音を立てて戻すのでありました。
「そうなると山尾主任は、元の上司である片久那制作部長のこの先の後援も期待出来ないと云う事になる訳か。益々山尾主任の頬はこけるな、これでは」
 頑治さんは眉根を寄せて見せるのでありました。「ところで、最近接触の増えた日比課長はどんな立ち位置なんだろうか、山尾主任に対して」
「こちらも後援と云うところでは期待薄だろうな。日比課長は元々山尾主任のような融通の利かない、日比課長流の冗談の通じないタイプは苦手にしているからなあ」
「確かにタイプが全く違うかな」
「山尾主任の夕方の儀式になっている土師尾営業部長との差しでの打ち合わせの時、山尾主任が何か仔細な事で土師尾営業部長のお小言を頂戴している時も、日比課長は自分にお鉢が回って来るのを警戒してか、全く我関せずのつれない態度だからなあ」
「すっかり孤立無援状態と云う訳か」
 頑治さんは一層眉根を寄せるのでありました。これはもう、頬もこければ口数も減るでありましょう。頑治さんは同情を禁じ得ないのでありましたが、かと云って歳下で新参者で部署も違う自分が手助けする術は特には無いし、励ましの言葉を掛けると云うのも身の程知らずに烏滸がましくて、或る意味不謹慎と云うものもでもあるでありましょう。
(続)
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