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あなたのとりこ 237 [あなたのとりこ 8 創作]

「じゃあ、ええと、確か片久那とか云う名前だったかな、そのもう一人の部長の方はどうなんだ? これ迄の話しに依るとなかなかのキレ者で迂闊なところは全く無くて、諸事勘も察しも良くて、その上結構剛腕だと云う事だったけど」
「片久那制作部長、ねえ」
 均目さんはそこで少し考える風の顔になるのでありました。「片久那制作部長はひょっとしたら何か感付いているかも知れないかなあ」
 ここで派江貫氏の表情の険しさがいや増すのでありました。
「その片久那とか云う部長が策動したんじゃないのか、今回の人事は?」
「いやしかし我々が労働組合を創ろうとしているとは知らないでしょうよ」
「勘が良いと云う事だから、気付いているかも知れないじゃないか」
「それはどうかなあ」
 均目さんは懐疑的な顔をするのでありました。「我々の不愉快の度合いが上って、前より親密に寄り合って、愚痴を零し合ったり憂さ晴らしをする連帯感みたいなものは強くなったと感じているかも知れないけど、でも我々の事を、それがより嵩じて労働組合結成と云う選択に走るような連中だとは考えてもいないんじゃないかな」
「そうね。片久那さんの頭の中では、あたし達と労働組合結成と云うものがそうすんなりと結びつかないでしょうね。それはあたしもそう思うわ」
 那間裕子女史が均目さんの意見に同調するのでありました。
「でも、勘が良いんだろう?」
 派江貫氏が未だ嫌疑を長引かせるのでありました。
「それに第一、片久那制作部長は社長や土師尾営業部長と折り合いが悪いから、社員を差し置いて向こう側に加担する気は先ず無いと俺も思いますね」
 これは山尾主任の意見でありました。
「折り合いが悪いと云うか、片久那制作部長は社長の事を経営者としては小者扱いしているところがあるし、況してや土師尾営業部長なんか歯牙にもかけていないだろうな」
 袁満さんも続くのでありました。
「だからって組合結成を妨害しないと云う保証はないじゃないか」
 派江貫氏はなかなか疑いを解かないのでありました。
「まあでも、あの人は学生時代は全共闘学生運動の闘士だった人ですからね」
 山尾主任がそんなところに根拠を求めるのでありました。
「そう云うヤツの方が往々にして、学生運動から足を洗った後はとんでもない程変貌して仕舞って、左翼的なものに対して始末の悪い強い敵意を向けたりするものだ」
「でも、矢張り今回の人事異動は、片久那制作部長の目論見ではないでしょうね」
 均目さんが結論的な云い草をするのでありました。
「絶対そうだと断言出来るか?」
「何度も云うけど、世の中に、絶対、なんて云うのは存在しないものですよ」
 均目さんはあしらうような笑みを浮かべて派江貫氏を挑発するのでありました。
(続)
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