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あなたのとりこ 235 [あなたのとりこ 8 創作]

 那間裕子女史の言動は人が悪いのに加えて、あくまで身も蓋も無くつれないのでありました。まるで山尾主任の一身上のあれこれに関してはとことん関心が無いと云った按配であります。均目さんも実はそう云うところではありましょうが、那間裕子女史程露骨ではないのでありましたし、頑治さんとしても均目さんと同じ心地と態度でありましたか。

 山尾主任が帰って来て最初の組合結成会議の席で、全総連の横瀬氏から山尾主任に配置移動の件と待遇の変更について確認があるのでありました。
「山尾さんは今次の配置移動を、充分納得して受け入れたのかな?」
「喜んで、と云う訳ではありませんが、まあ、一応納得しています」
「何かしらの報復人事という事ではないんだね?」
「それはまあ、大筋では違うと考えています」
「大筋では、と云うのはどういう意味かな?」
「片久那制作部長は前から俺を、自分の部下として物足りなく思っていたような節があったから制作部から出したかった、と云う側面の意図はあったんだろうけど、でもそれは報復とは少し違うでしょうしね。俺にとって全くの寝耳に水の配置転換で、受け入れる余地も無いと俺が考えたのなら大いに恨みにも思うだろうけど、俺の方も最近、制作部の仕事に何となく限界を感じていたんで、丁度良かったと云う面もありはしますしね」
「制作部長が、自分が気に入らない人を配置転換で自分の下から追い出すと云うのは、私的な好悪からの明らかなハラスメントだと云うニュアンスも窺えるけど」
「ハラスメント、と云うのは何だい?」
 と、これは縁満さんが偶々隣に座った頑治さんに小声で訊く言葉でありました。
「要するに、嫌がらせ、とか、虐め、とか云う意味ですよ」
 頑治さんがこれも声を潜めて応えると、袁満さんは口を尖らせて納得したと云う頷きを何度かして見せるのでありました。
「ハラスメントって何ですか?」
 袁満さんと同じ事を山尾主任が、これは大っぴらに横瀬氏に質問するのでありました。それに対して横瀬氏が頑治さんと同じ応えをするのを見てから、袁満さんが頑治さんの顔に視線を移して無邪気な笑いを投げるのでありましたが、これは一種の愛嬌がありはするけれど無意味と云えば無意味なこの場での所作と云えるでありましょうか。
「嫌がらせと云うよりは、お互いの幸せのための配慮とも云えるかも知れない」
 山尾主任が少し考えてからそう呟くのでありました。
「お互いの幸せ?」
 横瀬氏が首を傾げるのでありました。
「一緒に居て不愉快なら、別の処に居る方がお互い気楽で好都合じゃないですか」
「成程ね。それは確かに」
 横瀬氏は別にその山尾主任の応えで納得した訳でもないようでありますが、一応頷いて見せるのでありました。「山尾さんにとって、不本意な配置転換ではない訳だね」
(続)
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