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あなたのとりこ 227 [あなたのとりこ 8 創作]

 出雲さんの不機嫌と溜息は、未だ当分解消しそうにない模様でありますか。
 そんな出雲さんとの話しの途中で袁満さんが倉庫に顔を見せるのでありました。
「出雲君、日比さんが営業から帰って来たから、上の事務所に上がれってよ。土師尾営業部長と日比さんと三人で、新しい仕事に関してこれから打ち合わせだそうだ」
 袁満さんにそう声を掛けられた出雲さんはまた溜息を吐くのでありました。察するところ打ち合わせと云われても、何を打ち合わせすれば良いのかさっぱり判らないと云ったところでありましょうか。それに日比課長と二人での打ち合わせならまだしも、そこに土師尾営業部長が加わるとなると余計げんなりと云った心持ちなのでありましょう。
 出雲さんが陰鬱気な表情で事務所の方に向かっても、袁満さんの方は倉庫に残るのでありました。こちらも出張営業の遣り方が変更になるから屹度忙しい筈でありますが。
「袁満さんは上に戻らなくて良いんですか?」
 頑治さんは先程の出雲さんと同じように作業台の傍らで、別に何するともなく佇んでいる袁満さんに声を掛けるのであました。
「ちょっと息抜きだよ」
 袁満さんも出雲さんと同じ科白を吐くのでありました。「今日は珍しく土師尾営業部長が外に出ないで事務所の中に居座っているから、上は空気が悪く息も出来ない」
 まるで光化学スモッグみたいな扱いであります。
「仕事内容が代わったら、袁満さんは出張日数が減るんですか?」
 頑治さんは梱包作業を続けながら愛想にそんな事を訊くのでありました。
「どうかな。ま、電話中心の注文取りと云う事になるけど、ひょっとしたら出雲君が回っていた地域にも出張回りする場合もあるかも知れないから、下手をすると出張が増えるかも知れない。未だ今のところはどうなるか良く判らないけど」
「これ以上出張が増えると、殆ど一年中会社に出てこられないんじゃないですか?」
「そうね、代休も取れなくなるかもね」
 袁満さんはここで溜息を吐くのでありました。どうやら営業部はここのところ溜息の大棚浚えと云った按配のようであります。
「でも出張経費の抑制と云う点で、日数は減る方向なんじゃないですか?」
「そうね。土師尾営業部長は口を開けばそればっかり云っているよ。経費削減を第一番目に考えろとか、無駄な出張はこれから先は許さないとか何か厳めしい顔して凄んでいる。今迄だってこっちは別に無駄に出張していた訳じゃないんだけどね」
 恐らく土師尾営業部長の事だから、まるで袁満さんや出雲さんが経費の事なんか考えないで、のんびり旅行気分で気楽に出張を楽しんでいたのであろうと、手前勝手な誤解をでもしているのでありましょう。出雲さんの出張前の気鬱を慮れば、年間百日を軽く超える出張スケジュールが気楽な訳がない事は充分に判りそうな筈であるのに。
 袁満さんとて、これ迄も出来れば出張日数を減らしたかったでありましょう。そう云えば前に冗談紛れではあるけれど、自分が結婚出来ないのは出張仕事が影響していると、まあ、実際はそれだけではないにしろ、袁満さんは零していた事がありましたか。
(続)
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