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あなたのとりこ 226 [あなたのとりこ 8 創作]

「何、これ以上あたしには話したくないって素振りね」
 那間裕子女史は頑治さんの反応にいちゃもんを付けるのでありました。「ま、いいや。あんまり話したくないなら、それはそれで」
 那間裕子女史はテーブルの上のあら方空いた皿を見渡して箸を置くのでありました。

 頑治さんが倉庫で梱包作業をしていると出雲さんが上の事務所から下りて来るのでありました。出雲さんは当初の予定では二月迄出張は無いのでありましたが、二月から近郊の特注営業の仕事に回る事になったために、これ迄担当していた東北や北海道と云ったエリアの出張先に、もう車で出向く事はないけれど電話注文と云う形でこれ迄通りのお付き合いをよろしくと、挨拶の電話にここのところ掛かり切りなのでありました。
 その電話がなかなか骨の折れる仕事のようで、ちょっと息抜きと云う心算で倉庫に下りて来たようでありました。出雲さんは作業台の傍らで頑治さんの仕事の邪魔にならないように遠慮がちな様子で佇んで、会社のすぐ傍の自動販売機で買って来た缶コーヒーを飲んでいるのでありました。その口から時々溜息が漏れるのでありました。
「どうです、なかなかあの日以来目まぐるしい様子ですけど?」
 頑治さんがそう声を掛けると出雲さんはニンマリと愛想笑って見せて、もう一口コーヒーを喉に流し込んでからまた溜息を吐くのでありました。
「北海道のお土産屋とか東北の山奥の温泉宿なんかは冬場には閉店していたりするところが多くて、なかなか連絡が付かないからちっとも捗りませんよ」
「ああ、そういう処は冬場は観光シーズンではないでしょうからね」
 そう云う訳でこれ迄は、二月一杯出雲さんは出張を免れていたのでありました。
「未だ、日比課長と新しい仕事で外を回ってはいないんですか?」
「日比さんも仕事が代わるんで、今迄の得意先とかへの挨拶なんかであれこれと忙しそうですからね。それに山尾主任が旅行から帰って来れば、引き継ぎで一緒に得意先回りもしなければならないでしょうから、新しい方の仕事は未だ目途も立っていませんよ」
 出雲さんはここ迄云ってまた溜息を吐くのでありました。
「でも一方では、あんなに億劫がっていた東北や北海道への長い日数の出張から解放されるんだから、そちらに関しては、これからは少し気が楽なんじゃないですか?」
「まあ、それはそうですけどね」
 出雲さんはこれ迄は出張に出る二日前辺りから、目立って気が重くなって口数が減り、自分からは冗談も云わなくなり、こちらの冗談に対しても全くノリが悪くなるのでありました。長く東京を離れて仕舞う出張の仕事は大いに苦痛のようでありました。
「東京近郊とか遠くても北関東辺りなら、若し出張で行く事があるとしても精々二泊で済むんでしょうね。そっちに関しては今迄よりは楽になるんじゃないですかね」
「ま、どうなるか未だ何も判りませんけどね。多分出張の日当とか宿泊代をケチるだろうから、泊りの仕事は無いけれど、早出と遅帰りばかりの毎日になるかも知れないし、実はそっちの仕事に対するイメージが、未だ何も掴めませんからね」
(続)
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