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あなたのとりこ 215 [あなたのとりこ 8 創作]

「那間さんはちっとも、山尾主任の結婚を祝福していないみたいだね」
 均目さんが皮肉るような云い様をするのでありました。
「そんな事もないけど、でもとても嬉しく思っているかと云うと、それもそうでもないけどね。まあ、どうでも良いと云うのか無関心と云うのか」
「そう云えば山尾主任が片久那制作部長に、今度結婚することになったからと報告して、それに付いては一月十九日からの新婚旅行休暇をと切り出した時に、片久那制作部長は、まあ、一応は祝福の言葉をかけたんだけど、それでは休暇の取得を了承してくれますかって山尾主任が確認すると、それは仕方が無い、とか応えていたなあ」
 均目さんが思い返すような目容をしながら云うのでありました。「その、仕方が無い、と云う云い草がさ、横で聞いていた俺は少し失礼だなあと思ったんだ。人の慶事を、仕方が無い、とか云って了承するって法はないよなあってね。心根の内で実はそう思っていたとしても、もっと負担を感じさせないような配慮した云い方があるんじゃないかな」
「そう。ふうん」
 那間裕子女史のこの合いの手は、均目さんのその時の心情にあんまり同調しないようなやけにあっさりしたトーンでありましたか。山尾主任に対して普段から肩入れもしていないし、思い入れも大して持っていないからでありましょう、その冷淡さに於いては、那間裕子女史も片久那制作部長と同じ程度だと云うところでありましょうか。
「ちっとも失礼だとは思っていないようだね、那間さんは」
 均目さんが少しがっかりしたような声を出すのでありました。
「別に失礼だとか思うような事じゃないんじゃないの。片久那さんもあっけらかんと無意識にそう云う云い方をしただけで、別に悪気なんか無いんじゃないのかなあ」
「悪気は無いかもしれないけど、でも優しさも無いよなあ」
「片久さんに優しさを求めている訳、均目君は?」
 那間裕子女史は憫笑のような笑いを口角に上せるのでありました。
「そう云う訳じゃないけどさ」
「まあ、その時の均目君の心情なんてものは、要するに山尾主任への同情が主意ではなくて、片久那制作部長に対する日頃から抱いていた不満の発現だと云う事かな」
 頑治さんがしたり顔でそんな事をものすのでありました。
「ああ成程ね。それじゃあ均目君は矢張り、要するに片久那さんに対して、もっと優しくあれと願っている、と云う事にもなる訳ね」
 那間裕子女史のこのもの云いは冷やかすような口調でありました。
「優しくあれ、と云うよりは、大らかであれと云う事かな」
「大して大らかとも思えない均目君が、良く云うわ」
 那間裕子女史は鼻を鳴らすのでありました。
「いやいや、実は俺は、こう見えても根は大らかなヤツなんだよ」
「ふうん。大らかの国から大らか教を広めに来たような人?」
 この那間裕子女史の云い草は頑治さんの口真似のようでありました。
(続)
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