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あなたのとりこ 213 [あなたのとりこ 8 創作]

 頑治さんのその云い方が如何にも気楽そうな感じなので、片久那制作部長と那間裕子女史、それに均目さんは笑いを漏らすのでありましたが、山尾主任は陰気そうな表情を変えないのでありました。自分のこれから先の境遇の変更に対する不安で頭が一杯で、頑治さんの呑気な物腰になんかには気持ちが回らないのでありましょう。
「三人に云う事は、今日はそれくらいだ」
 片久那制作部長は今度は山尾主任に目を向けるのでありました。「それから山尾君とは少し二人で話したいから、ちょっと付き合ってくれるか?」
 片久那制作部長は右手で杯を持ってそれを呷るような仕草をするのでありました。山尾主任はその謂いをすぐに理解して一つ頷くのでありました。
 五人は揃って会社を出るのでありました。片久那制作部長は山尾主任と二人で、馴染みにしている神田の居酒屋に向かうために御茶ノ水駅方面へと歩き去るのでありました。頑治さんは二人と一緒に歩いて帰るのは何となく気詰まりであったから、少し間を測ってから那間裕子女史と均目さんにさようならと云うのでありました。
「帰ってから何か用でもあるの?」
 那間裕子女史が小首を傾げて頑治さんに訊くのでありました。
「いや、別に何もありませんけど」
「だったら三人で少し飲んでいかない?」
「ああ、それは構いませんけど」
 均目さんにお誘いの言葉をかけないのは、自分が飲むと云ったら、均目さんは必ず付き合うと決めてかかっているからだろうと頑治さんは推察するのでありました。
「じゃあ、新宿に行く、それともこの辺にする?」
「俺としては新宿に出るのは少しかったるいから、この辺でと云う事にしたいですね」
 その頑治さんの要望を入れて、三人は神保町交差点から春日通りを水道橋方面に少し歩いた辺りにある居酒屋へと向かうのでありました。

 何となくその日はビールよりも日本酒が飲みたいと三人意見が一致したので、猪口で乾杯した後那間裕子女史が話し始めるのでありました。
「今頃、片久那制作部長と山尾さんの二人もこうして飲みながら、山尾さんの処遇についてどうだこうだと話しをしているのでしょうね」
「向こうの居酒屋は神田駅から結構歩いた日本橋辺りにあるから、未だ屹度到着してもいないと思うけど、まあ、到着したらそんな話しが始まるだろうな」
 均目さんが少し時間に厳格な辺りを補足するのでありました。
「均目君はその居酒屋を知っているの?」
「いや、行った事はないけど、前に片久那制作部長から聞いた事はある」
「屹度二人で陰々滅々とした雰囲気で杯を傾けるんでしょうね」
「そうだろうなあ。同席するのは真っ平御免と云った風の飲み会だろうな」
 均目さんは顰め面をして猪口を傾けるのでありました。
(続)
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