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あなたのとりこ 209 [あなたのとりこ 7 創作]

 土師尾営業部長は声を一オクターブ程上げて荒げて見せるのでありました。紛う事無く見事に喧嘩腰になっていると頑治さんは秘かに笑うのでありました。

 片久那制作部長が背凭れから上体を起こして横の土師尾営業部長の方に視線を向けるのでありました。片久那制作部長の挙動の一々を終始過剰に気にしていたのであろう土師尾営業部長は、その自分に向けられた視線に思わずおどおどと狼狽えるのでありました。
「もういい加減にしてくれないかな」
 大人しい云い様ではあるけれど、ドスの利いた不愉快そうなその声に土師尾営業部長の体が瞬時に固まるのでありました。ここでも格の違いが如実に表れた格好であります。
 ここに於いてはっきり自分に向けられた片久那制作部長の怒気に、土師尾営業部長は眼鏡の奥の眼球をせわしなく搖動させながらたじろぐのでありました。
「営業の話しは営業会議でとさっきから云っているじゃないか」
「ああ、そうだったね。・・・」
 土師尾営業部長はしどろもどろに云って、反射的に出て仕舞ったのか、お追従笑いのような笑みを片久那制作部長に向けるのでありました。
「この先の人事と云うか仕事の担当は、先ず日比さんは新しく特注営業に回る事になった山尾君に漸次仕事を引き継いで、その後は新しい地方特注営業を受け持つ事になった出雲君と一緒にそちらを専任で受け持つ。それから袁満君は出張営業の遣り方を根本から見直して二月迄には一定の見通しを立てる。勿論日比さんと出雲君はもっと長いスパンで考えて構わない。そう云う方向でこれから頻繁に営業会議を開いて検討してくれと云う事だ。日比さんと山尾君、それに出雲君は新しい分野の仕事に携わる事になるし、袁満君は今の自分の仕事の遣り方を見直せ、と云うのが今日集まって貰って伝えようとした趣旨だ」
 片久那制作部長が纏めるのでありました。確かに余計な事を喋らずこれだけ淡々と述べれば、無意味な紛糾は生じなかったかもしれません、いやまあ、話しの内容が内容だけに、単なる伝達事項として終わる事は無かったかも知れませんけれど。
 それでも、日頃からちっとも心服されていない体裁上のボスである土師尾営業部長の口から乱暴に伝えられるよりは、誰からも畏れられている実質的ボスたる片久那制作部長の威を以ってクールに伝えられた方が、社員の方も途中で話しの腰を折るとか、すぐに反論を口にする事も恐らく出来ずに、もう少しくらいはこの会合は早く終了していた事でありましょうか。まあ、矢張り話しが話しだけに、それは俄には判りませんけれど。
「それじゃあ一つお伺いしたいのですが」
 今迄悄気ていた山尾主任が声を上げるのでありました。「自分達の配置転換とかの提案は判りましたけど、それならば営業部長の仕事振りはこれ迄同様で何の変更も無いのですか? それに不謹慎かも知れませんが業績不振を招いた、敢えて云えば制作部長も含めた両部長の会社運営上の責任と云う問題は、ここでははっきりされないのですか?」
 この言を聞いてすぐにまた土師尾営業部長が迂闊に熱り立って反射的に何か口走ろうとするのでありましたが、片久那制作部長がやおらそれを手で制するのでありました。
(続)
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