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あなたのとりこ 205 [あなたのとりこ 7 創作]

「そう云う風にしか考えないから袁満君はダメなんだよ」
 口を閉ざした日比課長の代わりにと云う訳ではないでありましょうが、及び腰ながら反論を試みた袁満さんに土師尾営業部長は頭ごなしの否定を投げ付けるのでありました。
「でもウチみたいな人数の少ない小さな会社は、他社との関係こそ何より大事だと考えるなら、思い付いた事を後先考えないで勝手都合で何でもして良いという事にはならないでしょう。ひょっとしたらそれは命取りにもなりかねないんじゃないですかね」
 袁満さんはめげずに、至極まともらしい懸念を表するのでありました。
「何でもして良いなんて誰も云っていないじゃないか」
 土師尾営業部長は顔を紅潮させて目尻を吊り上げるのでありました。「営業の手際次第でその辺はどうにでもカバー出来る問題だろう」
「第一、今迄特注営業の経験が何も無い出雲君が、その辺の機微をいきなり上手に処理出来る筈はないし、営業経験が豊富な部長にしたって、おいそれとどうにでも出来るとは思えないわね。怒るだけで説得力のある根拠も方法も示さないのはダメよ」
 営業部の袁満さんは云い難いと思ってか、ここで那間裕子女史が揶揄雑じりの言を吐くのでありました。何時もなら山尾主任がそう云う役割を担うのでありましょうが、先に制作部から営業部への鞍替えを云い渡された事で心の内で動揺があるらしく、この場に於いては何も言葉を発しないのでありました。かなりショックであったようであります。
「じゃあ、那間君ならやれるとでも云うのか」
 土師尾営業部長のこの買い言葉は支離滅裂とも云えるでありましょう。頑治さんは余りのピント外れに思わず吹き出しそうになるのを必死に堪えるのでありました。
「それこそ、誰もそんな事は云っていないでしょう」
 那間裕子女史はげんなり口調で呆れて見せるのでありました。「何でそんな風に、人の意見を僻耳でしか聞く事が出来ないのかしらねえ」
「僻耳でなんか聞いていないよ」
 土師尾営業部長は熱り立つ、或いは熱り立つ真似をするのでありました。
「もう、話しになりそうにないわね」
 那間裕子女史はクールな云い様をするのでありましたが、心根の内の軽蔑と憤怒をつまりそう云う云い様で表現しているようでありますか。
「那間君も、そのくらいにしとけよ」
 片久那制作部長が怒ったように声を上げるのでありました。一瞬で場の空気が凍り付くのでありました。さすがの迫力であります。更に、那間君も、と云うこの、も、を云う事で暗に土師尾営業部長に苦言を呈したのであろうと頑治さんは思うのでありました。
 土師尾営業部長も那間裕子女史も、それにこの場に居る全員が緊張の面持ちで次の片久那制作部長の次の言葉を待つのでありました。
「集まったのは人事の件だとさっきから云っているんだから、あれこれ余計な話しはもう沢山だ。それに営業の細かな話しは営業部の会議でやってくるかな」
 片久那制作部長は横に座っている土師尾営業部長の方に顔を向けるのでありました。
(続)
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