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あなたのとりこ 204 [あなたのとりこ 7 創作]

 次に名前を呼ばれた出雲さんは、ビクッと体を小さく震わせてから顔を起こすのでありました。これ迄の話しの流れからすると、今度は自分に対して好都合でない理不尽な提案がなされるものと身構えたのでありましょう。
「出雲君も今迄の出張営業から特注営業の方に回って貰います」
 土師尾営業部長は出雲さんの動揺に頓着せずに続けるのでありました。「と云っても都内や近郊の特注営業ではなく、地方の特注営業と云う事になります」
「地方の特注営業、ですか?」
 出雲さんは云われている事柄が良く呑み込めないと云った顔をするのでありました。
「そう。今までの特注営業は都内とか精々埼玉や神奈川辺りの会社に限られていたけど、これからはもう少し地方の街に在る会社にも営業の範囲を広げて行こうと云う計画なんだよ。先ずは千葉や水戸や高崎、それに宇都宮辺りの日帰り出来るエリアからね」
「そう云うのは都内にある広告代理店なんかに任せていた筈ですけど?」
 日比課長が首を傾げるのでありました。
「それでは貴方任せでしかないから、ウチで直接営業しようと云う事だよ」
「ウチで直接動くとなると、今迄取引きしていた代理店とかから文句が来ないかなあ」
 日比課長は首を傾げた儘で懸念を表するのでありました。
「でも代理店任せだとなかなか仕事が来ないのも事実だろう。代理店だってウチの商品だけ力を入れてセールスしてくれている訳じゃないんだから」
「日比さんはウチと代理店との間で培ってきた信義の点を心配しているのでしょう」
 袁満さんが日比課長の方に顔を向けて横から口を挟むのでありました。直接土師尾営業部長の方に云うのは畏れ多いと云うより、この人によくある傾向から判断して、すぐに自分に逆らったと思って感情的に反発される面倒が億劫なためか、袁満さんは日比課長に話し掛ける体裁で意見をものしたのでありまししょう。
「まあそう云う事だけど」
 日比課長が頷くのでありました。
「そんな事云ったって、代理店任せだと仕事が来ないのなら仕方ないじゃないか」
「でも、若しウチが直接営業を掛けていると知れたら、代理店だって得意先荒しをされているようで面白くないと思いますよ。そうなったら今後、その代理店からの仕事は無くなるかも知れない。そっちの方が寧ろ、損失が大きいんじゃないかなあ」
 日比課長はあくまで慎重論の内に立て籠もって異論を繰り返すのでありました。
「そんな消極的な思考しかしないから売り上げが落ちるんだよ。代理店に知れないように上手に営業すればいいんで、それは営業手腕と云うか手際次第だろう」
 土師尾営業部長は目を吊り上げて、早速苛立たしそうな感情的な口調になるのでありました。日比課長は何時もの事だからげんなりした表情で瞑目するのでありました。
「営業先とウチとの関係が、そこと今まで付き合ってきた代理店との関係より密になれば、それはバレないかも知れないけど、そこ迄密になるには時間が掛かるんじゃないかな。その前に注進されて、結局ウチと代理店との信頼関係が壊れるような気がするなあ」
(続)
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