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あなたのとりこ 180 [あなたのとりこ 6 創作]

「闘争、と云う言葉は別に左翼の専売特許と云う訳でも無いよ」
 頑治さんが唐突に云い出すのでありました。「ヒトラーの『我が闘争』と云う著作もあるんだし。ヒトラーは確か左翼じゃなかったと思うけど。いやまあ、俺は高校生の時にはあんまり世界史の勉強が好きじゃなかったから記憶違いかも知れないけどさ」
 その頑治さんのほんの少し冗談を交えたような云い草を聞いて、横瀬氏と隣の派江貫氏が頬の緊張を緩めるのでありました。頑治さんは均目さんにもムキになって反論されないように、言葉にとろみを付けようとしてそう云う口調で云ったのでありました。
「ここは一つ、言葉に拘るよりも会議を前に進めようよ」
 議長役の山尾主任が提案するのでありました。
「俺も別に会議の進行を邪魔しようと思っている訳ではないですよ。使われる言葉はその組織の性格に関わるから大事な問題だと思うけど、しかしまあ、ここは時間が勿体無いから話しを前に進めましょう。ええと、活動方針の採択ですよね?」
 均目さんは、使われる言葉はその組織の云々、とか云う何とも潔くない、自説のような申し訳のような事を口にしながら取り敢えず話しの本筋に復すのでありました。
「じゃあ、闘争方針だけど、・・・」
 山尾主任は結局均目さんの意は酌まずに、闘争方針と、あっさり云って会議を先に進めようとするのでありました。「この暮れの一時金の件に象徴されるように、贈答社の労使関係は経営側に労働者が全く一方的に従属すると云う形態で、我々は仕事に於いても待遇に於いても、発言権も異議を申し立てる権利も剥奪された状態で放置されてきました」
 山尾主任は俯いて机上の紙を見ながら云う、と云うのか、読むのでありました。これも予め横瀬氏と摺り合わせた文言なのでありましょう。
 頑治さんはボーナス支給の経緯を考えると、現に社員は異議を申し立てようとしていたし、その結果として労働組合と云う選択をしたのでありますから、異議を申し立てる権利そのものはあるのか無いのか、その前提自体はあやふやではなののではないのかと思うのでありました。例え申し立てた異議が撥ねつけられる結果だったとしても。寧ろ後日の労働組合結成と云う目的のために異議申し立てを控えたのは従業員の側でありますし。
 均目さんもその辺の山尾主任の述べる前提が少し気になったようでありましたが、先程派江貫氏に怒られた事が意外に身に染みている所為か、特に異論を差し挟む真似は控えているのでありました。これは均目さんの気後れ故か億劫故かは確とは判りませんが。
「労使の在り方としてそれは不健全であり、延いては会社の将来的発展をも阻害する要因でもある事から、働く者の正統な権利獲得と経営側に対する発言権確立は急務であると判断されます。一方に、単なる企業内組合としてでは健全な労使関係構築のために行使出来る闘争力も限界があるので、全総連の適切な指導の下に、一企業だけに止まらない全国規模全産業の労働者の連帯に加わって、その後ろ盾を武器に働く者の権利拡大のために闘争を展開していくものである、と云うところが贈答社労働組合の闘争方針ですが、・・・」
 山尾主任は一気にそこ迄云って、と云うか、詠み上げて、社員全員の顔をゆっくりと見渡すのでありました。「この闘争方針に異議がありますか?」
(続)
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