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あなたのとりこ 179 [あなたのとりこ 6 創作]

「しかしそう云ってもここは話しを進めるために、・・・」
 山尾主任は口籠もって困じたように横瀬氏の方を見るのでありました。
「まあ、形式、と云うだけです」
 横瀬氏が助け舟を出すのでありました。「初回の会議の手続きみたいなものです」
「形式的手続きなら、省いても構わないのじゃありませんか?」
「いやいや、幾ら形式的手続きだと云っても、手続きは手続きですから、人が集まって創る組織である以上省けません。そう云ったものをきちんと踏む事は必要です」
「阿吽の呼吸、と云うものがあるじゃないですか。だから省略出来るものは省略して本題を早く話し合う方が、会議を進行する上で効率も良いでしょうに。何十人とか何百人の会議と云うならまだしも、高々当事者五人の会議ですしねえ」
「抑々、会議は阿吽の呼吸で進めるものではありません。それに曖昧なところも有ってはいけません。全員が全員、貴方のように血の巡りの早い気の働く人じゃありませんから、堅実に、低い段差の階梯を一歩一歩、誰が遅れる事も無く進める方が良いのです」
 横瀬氏は少しの揶揄を添えて均目さんを窘めるのでありました。
「ああそうですか。まどろっこしいですね」
 均目さんは鼻を鳴らすのでありました。
「本筋じゃないところに拘って、進行を遮る方が余計話しをまどろっこしくさせているんじゃないのかい。自分の才気走った辺りを見せたいのかも知れないけど」
 これは横瀬氏ではなく、派江貫氏が割り込むように発した言葉でありましたが、派江貫氏の眼鏡の奥の目が均目さんを敵意に満ちた光で捉えているのでありました。「何となく見ていると、さっきから身を斜に構えたようにしてこの会議に臨んでいるけど、この会議そのものに云いたい事があるのなら、議事が始まる前に云って置くべきだろう」
 激した風ではないけれど、逆にそれ故になかなか迫力のある云い草と云えるでありましょうか。如何にもこのような会議で論争慣れしていると云った風情でありますか。
「まあまあ、派江貫さん」
 横瀬氏が派江貫氏の口調をやんわり抑えるのでありなした。

 横瀬氏は均目さんの方に目を戻すのでありました。
「闘争、と云う言葉が気に入らないのですかな?」
「枝葉ですが、それも、まあ、あります。如何にも大袈裟で、左翼っぽくて」
 均目さんは先程派江貫氏に咎められたのが少し利いているらしく、派江貫氏を見ないで横瀬氏の顔のみに目を釘付けるようにして頷くのでありました。
「では、活動、と云えばそんなに引っかからないで済みますか?」
「その方が左翼っぽくはないかな、ほんの少しは」
「どっちだって同じだよ」
 派江貫氏が舌打ちの後にドスの利いた声で割り込むのでありました。
「まあまあ派江貫さん、そんなにカリカリしないで」
(続)
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