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あなたのとりこ 176 [あなたのとりこ 6 創作]

 山尾主任と袁満さんは既に来ているのでありました。それに先日喫茶店で逢った横瀬氏と、その折横瀬氏が一緒に連れて来ると云っていた組合関係の男が二人、横瀬氏を挟むようにして大きな会議用テーブルの奥の一辺に並んで座っているのでありました。山尾主任と袁満さんが窓を左手に見る辺に座っていたので、遅く到着した三人はその向かいの窓を右に見る席に、那間裕子女史を真ん中に挟んで着席するのでありました
「惨憺たる支給額だったね」
 山尾主任が向かいの三人にがっかりしたような笑いを浮かべて云うのでありました。
「そうね。せめて賃金の一か月分くらいは出ると楽観していたけどね」
 那間裕子氏が受けて、頷きながらこちらも落胆の語調で応えるのでありました。
「まあゼロじゃなかったけどね」
 袁満さんもそう云いながら表情は冴えないのでありました。
「こうなったら春闘で暮れのボーナス分も取り返すしかない」
 山尾主任が決意表明するのでありましたが、そうは上手く事が運ぶかしらと頑治さんは不安を感じるのでありました。この暮れに金が無いのなら余程の事が無い限り年が明けて三か月で急に金回りが良くなるとは考えられないのでありました。
「さて、初お目見えの二人を紹介しておきます」
 横瀬氏がこの日の本題に入ろうとするのでありました。「こちらは出版部会の教育地図出版労組の派江貫統仁さんです」
 横瀬氏は自分の右手に座る仁を、掌を上にした手で指し示すのでありました。
「どうも。全総連傘下出版部会に属する教育地図出版の派江貫です」
 小柄で丸顔の茶色の大柄な千鳥格子模様のジャケットに身を包んだ、やけにレンズの分厚い黒縁眼鏡を掛けた、ぼちぼち頭髪の後退が目立ち始めた、横瀬氏より年嵩と思われる風貌の男が頭を下げた後、頑治さん達全員に律義に名刺を配るのでありました。
「それからこちらは小規模単組連合の木見尾太助さんです」
 横瀬氏は左隣りの仁を手で指し示すのでありました。
「小規模単組連合の木見尾です」
 こちらは痩せた中背の、無地の紺色ジャケット姿で、目鼻立ちがやけに地味で気の弱そうな、縮れた強い頭髪を頭の上にこんもり載せた、矢張り黒縁眼鏡を掛けている男でありましたが、こちらは特に名刺を配る事はしないのでありました。
「贈答社はギフト業と云う事ですけど出版みたいな事もやっているし、前身が地名総覧を出版していたと云う事なので出版部会から派江貫さんと、それから従業員二十人未満の小規模の会社の組合員が集まって、一つの単組として連合して活動をする組織が小規模単組連合で、一応そこに属して貰う事になるから木見尾さんにも来て貰ったのです」
 横瀬氏が二人を連れて来た理由を説明するのでありました。「序に付け加えておくと、派江貫さんは全総連の書記局員でもあります」
 そう云われて名刺に目を落とすと、確かに全総連書記局員と云う肩書きも記してあるのでありました。それ故に派江貫氏は組合支給の名刺を持っているのでありましょう。
(続)
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