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あなたのとりこ 165 [あなたのとりこ 6 創作]

「いや、俺もここで初めて知ったんですよ」
 袁満さんが那間裕子女史の些かきつそうな視線に怖じたのか、慌てて両手を横に何度も振って見せるのでありました。
「もう明後日がボーナス支給日なんだから、早く対策を決めて置かなければならない。昨日の話し合いで俺達だけではとても手に負えないような感じだったから、その道の専門家に助けて貰うしかないと思うんだよ。そうじゃないかい、那間君?」
 今度は山尾主任が小首を傾げるのでありました。
「それはそうかも知れないけど、・・・」
 那間裕子女史は俄には頷かないのでありましたが、その何の断わりも無い独走は許し難いけれど、山尾主任のお先走りも無愛想に鮸膠も無く隅に片付けて仕舞う訳にもいかないかと、内心の逡巡を言葉尻に垣間見せるのでありました。
「すぐに労働組合を結成しなさいと云う心算は無いですよ」
 横瀬氏が横から言を挟むのでありました。「色々と、労働組合と云うものに対して皆さんの考えもあるでしょうからね」
 その言葉を聞いて那間裕子女史は首を傾げた儘で視線を山尾主任から横瀬氏に移すのでありました。警戒心から眉間の皺もその儘刻んであるのでありました。
「取り敢えず今日のところは、直近のボーナス支給日の対応についてアドバイスを貰うだけだよ。労働組合結成の問題はまた後の話しだし、それは横瀬さんも承知の上だよ」
 山尾主任が云うと那間裕子女史の視線はまた山尾主任の顔に戻るのでありました。
「じゃあ、今回の件に対してどのようなアドバイスがいただけるんでしょうか?」
 那間裕子女史の言葉に籠る棘が未だ丸まっていないのを見ると、何時もの女子の性向に鑑みて、女史はこの横瀬氏が直感としてあんまり好きになれないようでありますか。
「何でも山尾さんの話しに依れば、何時もの暮れの一時金が今年は出ないか、或いは出ても極めて少額の可能性があると云う事ですけどね」
 横瀬氏は少し前屈みに、つまり身を乗り出すのでありました。「会社の業績だけでそれが決まるのなら、それは仕方が無いと云う事になります」
 聞いていた頑治さんは横瀬氏のその言辞に意外の感を抱くのでありました。労働組合関係の人であるなら、それは労働者の生活を考慮だにしない慎にけしからん事だから、大いに団体交渉で反駁しろと嗾けるものと思っていたのでありましたが、会社の業績が不振ならボーナスが出ないのも仕方が無いと云う事のようであります。ボーナスを、一時金、と云い換える辺りは、如何にも労働組合的な人であるとは感じるのでありましたが。
「じゃあ、ボーナス無し、或いは微々たる額を受け入れろとおっしゃるのですか?」
 那間裕子女史が労働組合関係者にあるまじきその言葉に気色ばむのでありました。無責任に一体何のアドバイスをしに遣って来たのか、と云ったところでありましょうか。
「まあまあ、そう早とちりしないで」
 横瀬氏は掌を那間裕子女史に見せて女史の苛々を制するのでありました。この手合いと話しをするのは慣れている、と云った余裕が感じられるのでありました。
(続)
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