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あなたのとりこ 157 [あなたのとりこ 6 創作]

 均目さんが笑うのでありました。
「ウダウダと出るとか出ないなんてところをあれこれ話していないで、支給額が二か月を切っていたら一斉にボーナス袋を土師尾さんに叩き返して会社を出て行くって、そうはっきり決めておけば、それで今日の話し合いは済んだ筈よ。何も明日また会社帰りに集まる必要なんて無かったのよ。そうは思わない、唐目君?」
 那間裕子女史の手が再び頑治さんの太腿の上に載るのでありました。ズボンを通してその掌がさっきより熱を帯びているように頑治さんには感じられるのでありました。
「でも、ボーナスを叩き返して会社を出て行った後はどうするの?」
 均目さんが訊くのでありましたが、その目も再び、目立たないようにではありますが、頑治さんの太腿の上の那間裕子女史の手の甲に向くのでありました。
「別にどうもしないわよ。その儘家に帰るだけよ」
「ふうん。後の事は考えていないと云う事ね」
「不満をきっぱり表明するだけよ。それから次の日は普通通り会社に来て、普通通り仕事をするだけ。何か物欲しそうに振る舞うより、その方が向こうをたじろがせるには効果的だと思うわ。たじろがせれば向こうも色々考えるわよ。ねえ、唐目君」
 那間裕子女史は頑治さんの太腿の上の手で、軽くそこを叩いて見せるのでありました。それは賛同を求めるための動作のようでありました。
 しかしそんなように同意を求められてもおいそれとは首肯出来ないように思えたから、頑治さんは頷かないで、少し冷えを籠めた笑い顔を向けるのでありました。
「向こうも色々考えて、次の日は増額して再度出してくる、と云う読み?」
 均目さんが那間裕子女史と頑治さんの視線の交差に割り込むのでありました。
「そうね。そうなれば御の字ね」
「そう上手くいくかな。そんなに甘くはないと思うよ」
 均目さんは懐疑的な意を表するためか椅子の背凭れに身を引くのでありました。「そんな不穏な真似をされたら、土師尾営業部長の事だから逆に怒り心頭に発して、ボーナスなんか要らないんだなと陰湿に開き直るかも知れないよ」
「怒りか動揺かは知らないけど、まあ、対抗上大いにひねくれるでしょうね」
 那間裕子女史はその時の童顔の土師尾営業部長が、興奮して赤くなってまるで臍を曲げた子供のような顔になるのを想像したのか、冷笑を漏らすのでありました。
「それに片久那制作部長も、そんな高飛車な態度に俺達が出たら怒るだろう」
「でも、片久那さんはボーナス支給派でしょう」
「幾らボーナス支給派でも、俺達の挑戦的な態度にはムッとするさ」
「別にムッとしても構わないじゃない」
「何かそうなると、制作部の雰囲気が次の日から一挙に悪くなるのは億劫だな」
「片久那さんが不機嫌になるのが均目君は怖いの?」
 那間裕子女史は少し軽蔑するような目を均目さんに向けるのでありました。
「だってそうなると、ボーナス支給派を降りるかも知れないじゃないか」
(続)
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