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あなたのとりこ 139 [あなたのとりこ 5 創作]

「ああ、俺は大丈夫っスよ」
 出雲さんが屈託無く笑いながら頷くのでありました。
「じゃあそうしてくれるか」
 片久那制作部長は出雲さんに向かって一つ頷いて見せてから、頑治さんを誘って制作部スペースに戻るのでありました。それから自分のデスクに座ると横手のマップケースからA半裁程の大きさの紙を取り出すのでありました。
 それは首都圏の鉄道路線図の原稿のようで、多くの二条線が縦横斜めに入り乱れて描いてあるのでありました。二条線の中には等間隔に丸が打ってあって、それは駅を表わしており、手書きの右下がりの癖のある字でその駅の名称が付してあるのでありました。
 所々には二条線を大きくはみ出した丸枠が描いてあり、これは中に書いてある文字から推察すると乗換駅とか市区の代表駅、それに恐らく特急とか急行の停車する路線の中の主要駅でありましょう。乗換駅と主要駅、それに市区代表駅の別も一条線と二条線、それに外枠が太く内枠が細い二条線等の描き方で区別してあるようでありました。
 先ず方眼紙に下図を描いてそれをコピーした物らしく、コピーが荒いためか所々に元々有った方眼の目も薄く移り込んでいるのでありました。頑治さんが机上のその図面を覗き込んでいると片久那制作部長が頑治さんを見上げるのでありました。
「これは何だか判るよな?」
「電車とか駅の地下道なんかでよく見掛ける鉄道の路線図ですか?」
「そう。図案はウチのオリジナルだけどな」
 片久那制作部長はそう云って頑治さんの方から見やすいように、紙を九十度回してほんの少し頑治さんの方に押し遣るのでありました。
「で、自分がお手伝いさせていただく仕事と云うのは何でしょうかね?」
「この図の駅間にその所要時間を書いていって貰いたいんだ」
「ここに描かれた駅間総ての、ですか?」
「勿論そうだよ」
 いやはやこれは結構面倒な仕事だと頑治さんは内心げんなりするのでありました。
「今日一日では終わらないかも知れませんよ」
「それは承知だ。出来るだけ上げて貰えば良い。本当は均目君にやって貰っている仕事なんだが、均目君は急に、今日の午後はずっと別の仕事をしなければければならなくなったんでね。その今日午後分のピンチヒッターをやって貰いたいんだよ」
 代わりが必要なくらいこの路線図の作成はかなり急ぎの仕事なのでありましょう。
「判りました。やらせて貰います」
 頑治さんはあっさりそう云って路線図の原稿を両手で取り上げるのでありました。
「遣り方とかの要領は均目君に聞いてくれ」
「何処でやればいいんですかね?」
「あたしの机を使っても構わないわよ」
 那間裕子女史が振り向いて声を上げるのでありました。
(続)
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