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あなたのとりこ 138 [あなたのとりこ 5 創作]

 一緒に戻って来た六人に片久那制作部長が訝し気な目を向けるのでありました。二人とか三人とかはあったとしても、六人の社員が打ち揃って昼休み明けに事務所に戻って来る事は今まで無かったのでありましょうから、奇異な光景だったのでありましょう。
 片久那制作部長は勘が良いので、その様子に何かを感じたようでもありましたか。しかしそれは一先ず脇に置いて、何も無かったかのように碁盤の上の自分の黒石をサラサラと音を立てながら片付け始めるのでありました。
「未だ々々当分は、日比さんには歯が立たないかなあ」
 片久那制作部長はそんな事を如何にも呑気そうな物腰で喋っているのでありました。
「いやいや部長は呑み込みが早いから、俺なんかすぐに追い越されますよ」
 日比課長はそう謙遜して見せて、格上の優越からか片久那制作部長よりはおっとりとした仕草で自分の白石を盤上から片付けるのでありました。
 頑治さんは机の上の発送指示書入れを覗いて何も無かったものだから、その儘倉庫に引き返そうとするのでありました。するとソファーから立ち上がった片久那制作部長に呼び止められるのでありました。何か制作部関連の仕事があるのでありましょうか。
「唐目君は午後の仕事はどんな感じかな?」
「二時半までに小石川の安藤坂物産からキーホルダーを引き取って来る予定です」
 このキーホルダーと云うのは、出張営業の袁満さんと出雲さんが観光地の旅館とかホテルの売店、それにお土産屋さん等に卸している商品で、金属製のアメリカ軍の兵士が首から下げている銀色の認識票のような代物でありました。それに各観光地の名称が刻印されていて、まあ、そんなに大量に売れる商品ではないけれど年間一定の安定した売り上げのある商品であります。安藤坂物産と云う会社が自社生産していているのでありましたが、贈答社の社員たる者がこうものすのも大いに憚りはあるけれど、頑治さんが若し旅行先でそれを目にしたとしても、恐らく購入しようと云う気は先ず起きないでありましょう。
「その後は?」
 片久那制作部長が更に訊くのでありました。
「今のところ取り急ぎの発送も配達も無いようですから、倉庫の整理整頓ですね」
 その日は珍しく発送や配達、それに引き取り関連の仕事が立て込んではいないのでありました。そんな手持無沙汰な折は、頑治さんは努めて倉庫整理とか駐車場周辺の清掃をするようにしているのでありました。頑治さんの持って生まれた綺麗好きとか几帳面がそうさせると云うよりは、色んな仕事の効率と気分の平穏を考えての事でありました。
「だったらちょっと制作部の仕事を手伝って貰えないか」
「はい。何処からか何か引き取って来るんですか?」
「いやそうじゃない。ちょっとした調べものだよ」
「調べもの、ですか?」
 どうやら専らにしている業務仕事の類ではないようであります。
「安藤坂物産にも出雲君に行って貰う事にして」
 片久那制作部長はそう云って席に座っている出雲さんを見るのでありました。
(続)
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